第102話 パロの港にて
文字数 2,240文字
ネーレイド号の航海が終わりに近づき、行く手にはパロの都が見え始めた。
パロの都は港に始まり緩やかな丘の上に市街が広がり、小高い丘の上に王宮がそびえている。
市街を形作る家々は白壁とオレンジ色の屋根瓦が多く、貴史はエーゲ海のほとりの都市を連想した。
貴史達が住んでいたヒマリアの国は、北の果ての小国であり、首都のイアトぺスも城壁に囲まれたこじんまりした都市だった。
その上、明るい空の下でコバルトブルーの海から丘の上に連なる家並みは異国情緒を感じさせるに違いない。
ヤースミーンはウキウキした様子を隠さない。
船酔いが治まらないヤンは港に着くのを待ちわびる表情だ。
やがて、ネーレイド号は帆を降ろして船足を落としながらパロの港に入港した。
副長のカールは港の外で小船から乗り移った水先案内人と共に船員を指揮し、ネーレイド号を岸壁へと寄せていく。
甲板上ではアンジェリーナがパロの都の来賓たちと打ち合わせに余念がなかった。
パロの港に到着した途端に、バイヤーたちは態度が大きくなりアンジェリーナも対応に苦労している様子だ。
アンジェリーナは意外ときつい商工会長に辟易しながらもどうにか話がまとまりそうなのでほっとしていた。
その脇では、セイレーンにかつての恋人の姿を思い出させられて微妙にダメージが残っているタリーがぼんやりとパロの都を眺めている。
腕のいい料理人と言えども、他人が作る美味しいものを食べるのは得難い体験なのだ。
タリーは心の空白を食欲で埋めるタイプの男だった。
貴史達は、ネーレイド号が接岸するのと同時に街へ出かけようとする。
その様子を見たリヒターは、やんわりと忠告した。
アンジェリーナも田舎者丸出しの3人に危なっかしさを感じて忠告したが、貴史達はリヒターとアンジェリーナの気配りを適当に聞き流して街に繰り出したのだった。
そもそも、波止場は入港した船の荷物が陸揚げされたり、物売りが船に押しかけたりして賑やかだが、更に街の中央に足を踏み入れると、喧噪は更に激しくなった。
3人は、くっつき合うようにして、大通りの両側にビッシリと並んで店開きしている露店を眺めて歩いた。
露天で売られているのは、名前もわからない野菜やフルーツ、それに魚介類に正体不明の肉もある。
異国情緒たっぷりな衣装の店もあれば、武器や防具の店も幅を利かせていた。
そして、通りを歩いているのは人だけではなく、エルフやオーク、はては獣人の類まで混じっている。
ギルガメッシュの経営を影で支えていたヤースミーンは商人のような目で人混みを見ている。
貴史は、オープンカフェ風に飲み物を提供している露天のウエイトレスにみとれていて、ヤースミーンに耳を引っ張られた。
その時、ヤンの叫び声が響く。
貴史とヤースミーンの間をすり抜けるようにして、小柄な人影が駆けて行くのが見え、その手にはヤンの財布が握られていた。