第125話 ヤースミーンはあきらめない
文字数 2,578文字
ヤースミーンは荷物の中に自分宛ての包みがあるのを見つけて、何だろうと訝しく思いながら包みを開けた。
包みの中から現れたのは、シーサーペントの皮をなめして作った立派なバッグだったで、送り主の欄にはムネモシュネの名前が入っている。
普段のヤースミーンは周囲の人々に気を配り空気を読むタイプなのだが、今は強引に自分の意見を通そうとしているように思える。
貴史としてはヤースミーンをガイアレギオンに残して行く訳に行かないので、ヤースミーンに同行せざるを得ない。
ヤースミーンは表情を明るくして貴史に答える、
ヤースミーンはムネモシュネ邸から運び込まれた荷物のうち自分の物をまとめ始めるが、そもそも貴史達はムネモシュネを治療するためにヤンがパールバティー号に乗り移った時に物見高くパールバティー号を見学していてシーサーペントの襲撃に遭遇して取り残されたのであり、たいした荷物も持っていない。
貴史とヤースミーンが下船の準備を始めていると、タリーとヤンが二人の前に立った。
タリーが温厚な笑顔で貴史とヤースミーンに話し、ヤンもそれに続いて言った。
ヤースミーンは感動した面持ちで二人に感謝し、貴史も同じ気持ちだった。
四名に膨れ上がったララア救出部隊がパールバティー号を出発しようとしていると、ボーディングブリッジまで見送りに出たセーラが真剣な表情でヤースミーンに告げた。
貴史は、意外に感じてセーラに問い返した。
セーラは凄みのある微笑を浮かべ、ダガーを隠し持っている辺りのマントをポンポンと叩いて見せる。
貴史は少人数で完全武装の軍隊を突破する自信は無かったが、うなずくしかなかった。
ボーディングブリッジを降りようとすると、貴史の背後からリヒターの声が響く。
貴史はこのまま出港して逃げてしまえば安全なのに、仲間のために踏みとどまる人々を見て、さっさと逃げようとしていた自分が恥ずかしくなった。
貴史達が出発する脇で、セーラは船員の一人に命じて水や食料などの航海に必要な物資の調達に走らせていた。
ドック入りを予定していた船には航海に必要な物資が積まれていないことを把握して出港準備を始めたのだ。
ララア救出作戦と、救出後の脱出の準備は時間との戦いでもあった。
ヤースミーンを先頭にして先を急ぐ一団は波止場を走り抜ける。
貴史が石畳の街路を走りながらヤースミーンに尋ねると、ヤースミーンは強気な表情で答える。
無茶苦茶だと貴史は思い、他に方法はない物かと考えるがリヒターはヤースミーンの案に賛同する。
貴史はヤースミーンやリヒターの考え方についていけない気がして首を振るが、少人数で王宮に乗り込むにはそれくらいしか方法がないのかとあきらめの境地に至った。
しかし、貴史達がガイアの街の半ばまで来た時に空気を切り裂く音と共に矢が飛来した。
貴史がヤースミーンのローブの襟を持って引き留めたので、矢はヤースミーンの鼻先をかすめて飛び去り街路樹に突き刺さっている。
貴史達は矢で射られることを警戒して路地に隠れたが、矢が飛んできた方向から見覚えのある女性兵士が二人の兵を伴って貴史達のいる方向に歩いて来つつあった。
ダミニと名乗ったのはパールバティー号でララアの世話を担当していた女性兵士だった。