第90話 村人登場
文字数 2,029文字
タリーの料理が出来上がると、ドラゴンハンティングチームの総務班は、クラーケンの墨パスタと、クラーケンのフリッターを乗せたプレートを手際よくメンバーに配っていく。
クラーケンの墨パスタは墨の持つ深い味わいがフィットチーネのような幅広のパスタ麺に絡んで絶妙においしかった。
パスタを一口食べた後はパン粉をまぶしてあげたクラーケンのフリッターもあるので、飽きることなくクラーケンの味を堪能することが出来る。
貴史は自分とヤースミーンが小川で採取したクレソンがプレートに彩を添えていることに気づき何となくうれしくなった。
ヤースミーンが疑い深く聞くので、貴史はパスタをフォークで巻いて口に運んで見せた。
すでにお毒見として一口食べているので、何の躊躇もなく食べることが出来るというものだ。
貴史の食べっぷりを見たヤースミーンは最初はおそるおそるパスタを口に運んでいたが、その味になじむと勢いよく食べ始めた。
貴史は、あっという間にプレートの料理を食べ終わると、パスタが残っている大なべにお代わりを貰いに行った。
チームで旅をする間、ドラゴンなどの大きな獲物や大量に食材を手に入れた時は、たくさん料理してチーム員にふるまうのが慣例になっている。
冷蔵できるわけでもないのでその場で食べてしまうのが最も合理的なのだ。
リヒターがヤースミーンに礼を言い、ヤースミーンも城壁を燃やしてしまったことを忘れてしまった様子で機嫌よく食事をしている。
その時、食事に興じる一同に鋭い声が浴びせられた。
そこには数名の戦士を引き連れて魔導士風の若い女性が立っていた。
貴史は自分たちが参戦する前に、時折稲妻が光って、城壁を登るクラーケン数体が落下していたのを思い出した。
クラーケンの墨パスタを食べていたヤースミーンの手が止まり中途半端な姿勢のまま凝固しているのが見えた。
女性はリヒターが調子のいいことを言っても簡単には迎合しない。
アンジェリーナは、貴史達が食べているクラーケンの料理が載ったプレートを嫌悪の表情で見て、口を開きかけたが、アンジェリーナの背後に控えた戦士のお腹が鳴る音が響いた。
アンジェリーナは振り返ってその戦士をにらんだが、リヒターに視線を戻すと仕方なさそうに言う。
アンジェリーナの言葉を聞いて背後に居並ぶ戦士たちは緊張を解いた。
辺境の世界では食事を共にすることは、仲間として打ち解ける意味合いがあることを貴史も理解している。
アンジェリーナが率いていた戦士たちはリヒターの案内で円を描いて座り、兜を外して寛いだ姿勢をとる。
そして、タリーたちが提供するクラーケンのパスタ地フリッターセットを恐る恐る口にい運び始めた。
時間が経過するにつれ、彼らは打ち解けてドラゴンハンティングチームの面々と話が弾み始めた。