第98話 出港の日
文字数 2,296文字
ヤヌス村が総力を挙げて建造した大型船はいわゆるバーク型三本マストの帆船でネーレイドと命名された。
そして、ヤヌス村の住人のあらかたと、貴史達ドラゴンハンティングチームが集い、盛大な進水式が行われた。
ヤースミーンが意外と所帯じみたことを言うので、貴史は微妙におかしかった。
タリーが示した進水式会場には大きなテーブルがいくつもしつらえてあり、そこには豪華に盛り付けられた料理が並ぶ。
宮廷料理風のロースト肉や、カツレツの類に、シーフードやキノコをふんだんに使ったピザやパエリアの類も並べられており、ヤースミーンは食欲をそそられていたようだが、材料を聞いて少し引いた雰囲気だ。
タリーは生食材を使った豪華料理に織り交ぜて、船便で運べるベーコンや燻製も並べており、招待されたパロの都のバイヤーたちは、興味深そうに味見をしている。
タリーが解説するとバイヤーたちはいっせいにピザを手に取った。都は飲食店も多いだけに、新しい食材にが手に入るとなれば敏感に動くようだ。
アンジェリーナは、少し離れて発泡酒のグラスを手にしている夫人に近づくと慇懃に礼を言う。
私もパロの商工会長をしているからには、新しい商売の機会を逃すわけにはいきません。聞くところによると一時はクラーケンに港を占拠されていたそうで足を運ぶのが無駄になるかと思ったけど、解決できたみたいでよかったわね
商工会長のジョセフィーヌは長旅に疲れたのか、微妙に剣のある言葉をアンジェリーナに浴びせるが、純朴なアンジェリーナは、気づきもしないで元気に礼を言う。
アンジェリーナは深々とお辞儀をしてジョセフィーヌの前を離れたが、ジョセフィーヌはアンジェリーナの後姿を見ながらため息をついて発泡酒のグラスを口元に運ぶ。
貴史は、ジョセフィーヌの独り言を聞いてしまったが、聞こえなかったふりをすることにした。
そんな貴史に、パロの町から来たバイヤーが話しかける。
貴史は、ドラゴンの夫婦をもろともに獲物にしてしまったことを思い出して少し口ごもったが、どうにか答えた。
貴史はバイヤーに礼を言って自分もドラゴンのベーコンを手に取った。ハーブと共に塩漬けにした後、広葉樹のチップで燻されたドラゴンの肉は、適度に脂身も含んでいて美味しい。
貴史がタリーの準備した様々な料理を楽しんでいると、好物のピザを手にしたヤースミーンが貴史に言った。
ネーレイドの処女航海にはチームシマダタカシの主だったメンバーも招待されていた。
ヤースミーンに引っ張られて、貴史は渋々会場を後にしたが、ネーレイドに目を移すと、船倉への貨物の積込が急ピッチで進められていた。