第59話 レイナ姫奪還作戦
文字数 2,843文字
伝令に来たレイナ姫配下の兵士は、侵攻してきたのはガイアレギオンと呼ばれる魔王配下の凶暴な軍事国家で、敵に捕らえられたレイナ姫と側近が明日の正午に処刑されると訴えた。
森に身を潜めた親衛隊兵士たちは圧倒的な劣勢の中、払暁攻撃をかけて姫の救出を目指すという。
エレファントキングの城の片隅で貴史たちは伝令として数十キロの道のりを走り通してきたハンスを囲んで、善後策を検討していた。
レイナ姫を慕うヤースミーンは、一人でも親衛隊の加勢に向かいかねない勢いで宣言した。
リヒターが迷惑そうにつぶやくと、イザークとホルストも同意するようにうなずいた。
伝令のハンスは、彼らの様子と森の中の状況がつながらなくて理解に苦しんでいた。
貴史はヤースミーンと顔を見合わせて、どう話そうかと悩んだが、先にヤースミーンが口を開いた。
ヤースミーンは適当にごまかそうとしたのだが、ハンスは感心したようにつぶやく。
タリーはハンスの言葉を聞いて怪訝そうに尋ねた。
シマダタカシは仕方がないので本当のことを話すが、鷹揚なタリーは深く突っ込まない。
クリストは自分が手を上げて前に進み出た。その横にヤースミーンが並び、少し遅れて貴史が手を上げて続く。
ドラゴンハンターチームはうつむいたままで動かない。ハンスは覚悟を決めて手を上げて貴史たちに加わり、避難民と一緒に逃げて来た兵士5人がそれに加わった。そして最後に、ララアが歩み寄る。
タリーが手を上げて加わろうとしたのをクリストが制止した。
リヒターがイザークとホルストに視線を投げると、二人は一斉に立ち上がった。
リヒターがせかすと、二人はあわただしく広間を出て行った。夜明けには間に合わなくても明日の正午には救援を呼べるかもしれないと彼らはとりあえず走って急を知らせるつもりらしい。
クリストが腕組みをして見下ろすと、ララアは挑戦的に見返す。
ヤースミーンが保護者的な立場から反対すると、ララアがやれやれと言うように首を振った。
クリストに同意してもらえると思っていたヤースミーンは驚いた表情を浮かべたが、クリストが兵士5人と士官にララアを護衛させると言ったことを思い出して少し表情を緩める。
ララアが子供らしい笑顔を浮かべてうなずいたのでヤースミーンはそれ以上反対しなかった。
クリストは次にヤースミーンと貴史に目を向けた。
自分が主役だと言われたヤースミーンは顔を引き締めたが、貴史は敵の戦力も定かでないのに襲撃をかけるのが不安でクリストに尋ねた。
クリストは温厚な笑顔を浮かべて貴史を見返す。
クリストは反論がないので自分の案を既定事項として作戦を説明し始めた。
ハンスは預けられた兵士の顔を見た。直属の部下はいないがホフヌングの住民なので顔見知りばかりだ。
傭兵部隊の隊長を務めていたクリストお支持は説得力があった。レイナ姫奪還作戦に立候補した人々はそれぞれに装備を整えに散っていった。
他の人々の動きに紛れて、ララアは城の上層階に向かった。秘密のスイッチを使って隠し扉をいくつも抜けると、間接照明が生きている区画に出た。
さらにもう一つ手のひらを押し付ける認証扉を開けると、そこにはかつては豪華な家具調度をそろえていた部屋がそのまま残っていた。
しかし、200年以上の月日にわたって閉め切られていたため家具はボロボロに朽ち果てている。
ララアが床の隠しボタンを押すと、石でできた四角い箱が床下からせりあがる。
蓋を開けるとその中には、王族が付けるティアラと瀟洒な衣装をまとった美しい人形が入っていた。
ララアが人形を手に取ると、それはボロボロと崩れ落ちて形を失っていった。しかし、もう一つ残されていた泥人形はララアが手にとってもその形は健在だった。
ララアの顔にうす笑いが広がった。