第68話 カニ食べに行こう
文字数 2,214文字
ガイアレギオンの侵攻を撃退してから数日後、貴史達は平穏な生活を取り戻しつつあった。
貴史達はガイアレギオンの手によってマンイーター化していたレッドドラゴンを倒したが、ドラゴンの肉の一部は避難民の食料に回されたものの、解体されたドラゴンの大半の部分はギルガメッシュに運び込まれた。
今は大型のレッドドラゴンが入荷した事を聞きつけて様々な地方から商人たちが買い付けに集まっている。
商人たちの多くはギルガメッシュで宿をとり、宿泊客の食堂を兼ねている酒場は連日にぎわっていた。
営業を終えた酒場でスタッフが食事をとっていると、ヤースミーンが貴史にささやいた。
貴史はテーブルの中ほどで静かに食事をとっているララアを見て、ここ数日の出来事を思い出した。
ララアは戦いのさなかにハヌマーンに捕らわれ、貴史はララアを取り返そうとハヌマーンに戦いを挑んで瀕死の重傷を負い、クリストはハヌマーンに倒されて死んだ。
ガイアレギオンの軍勢が退却したことを知った貴史はヤンとヤースミーン、そしてララアと共に、クリストが倒れた現場を訪ねた。
しかし、レイナ姫達が囚われていた建物は燃え落ちており、黒焦げになった地下室を探しても、クリストの遺体を見つけることはできなかったのだ。
ヤンの再生の魔法でクリストを甦らせようと考えていた一行の思惑は外れ、自分を助けるためにクリストが犠牲になったことを知ったララアは、ふさぎ込むことが多くなった。
貴史が口を開こうとしたとき、タリーが大きな声で皆に尋ねた。
タリーがモンスターを捕獲すると言ったら、当然それは捕獲してから料理して食べるために他ならない。
一同は、下手なモンスターの名前を上げたらそれを食べる羽目になると知っているので迂闊に口を開くことはしなかった。
しかし、微妙に空気が読めないヤースミーンはのんびりとした口調でタリーに答える。
皆が非難するようにヤースミーンに視線を送るが、ヤースミーンはのほほんとした顔でドラゴンのシチューを食べている。
貴史は興味を惹かれてヤースミーンに小声で尋ねる。
エレファントキングのダンジョンに何度も入っているが、そんなモンスターを見た覚えは無かったからだ。
タリーは、貴史とヤースミーンの会話に聞き耳を立てていたが、途中から話に加わった。
ヤースミーンは今更のようにタリーの意図に気が付いたようで、辟易した表情で言う。
しかし、タリーはヤースミーンの口調など気にする様子もなく続けた。
タリーは貴史やドラゴンハンティングチームの顔を眺めながら考え込む雰囲気だ。
ヤースミーンが気乗りしない雰囲気で告げたが、タリーは目を輝かせた。
食事をしていた皆の間を沈黙が支配したが、黙って食事をしていたララアが手を挙げていた。
ララアはスツールから飛び降りると、面白そうな表情でタリーを見つめている。
ララアがふさぎ込んでいることを誰よりも心配していたヤースミーンは、貴史の服の袖を引っ張りながら小声で言う。
貴史も自分の気分が上向くのを感じながら答えていた。
いつの間にか貴史とヤースミーンは自分たちがララアの保護者であるかのように思い始めていたのだ。
貴史が告げると、タリーは嬉しそうに笑顔を浮かべる。
タリーの頭にはすでにダンジョンガニ料理のレシピが出来上がっているかもしれなかった。
ギルガメッシュの店長を任されたリヒターは、ため息をつきながら貴史に言う。
リヒターの渋い顔に、貴史はうなずいて見せるしかなかった。