第14話 森に棲む魔物
文字数 2,732文字
タリーのくれた地図は簡単なものだった。ギルガメッシュから森に行き、森の中を少し進めば「オラフの小屋」に着きそうに見える。しかし、実際は森の中を相当な時間歩かなければならなかった。
森にはモミの木のような針葉樹が多いが、落葉樹も入り交じっている。冬に向かう今、落葉樹は葉を落としているので森の中でも所々明るく日が差し込んでいた。
貴史とヤースミーンが進む道は荷車を引いて通るのに十分な道幅があった。自分たちが落ち葉を踏む音に混じって、森の中からガサリと何者かが動く音が聞こえた。ヤースミーンはビクッとして立ち止まる。
貴史は、ヤースミーンのリアクションが可愛らしかったので、笑いながら答える。
ヤースミーンはふくれっ面をして歩き出した。貴史は荷車を引いて後を追う。二人は立木の影伝いに二人を追う影に気がついていなかった。
二人が三十分ほど歩いたところで森が開け、木の柵で囲われたこじんまりとした畑と古ぼけた丸太小屋が現れた。目的の農場にたどり着いたのだ。
貴史は小屋の入り口近くに荷車を置き、地面より一段高くなったウッドデッキに登ってから、入り口のドアをノックした。ヤースミーンも隣に立っている。
身長は百五十センチメートルほどで、目鼻立ちの整った東洋系の顔立ち。ストレートのロングヘアからキツネのような耳が飛び出している。
オラフは貴史とヤースミーンを小屋の中に招き入れた。
小屋の中は半分ほどが野菜で埋め尽くされていた。残りの半分のスペースにテーブルと椅子、そして小さなベッドが置いてあった。
貴史がオラフの指定した台の上に樽をセットすると、オラフは食器棚から自分の顔ほどもある陶器のジョッキを出してきた。
オラフはビールの樽の下の方に着いていた栓を外すと、飛び出してくるビールを器用にジョッキで受け止めた。そしてジョッキが満たされると再び栓をしてジョッキに口を付けたた。
貴史とヤースミーンは、ゴキュゴキュとジョッキのビールを飲み干すオラフをあきれて見ていた。
オラフはジョッキをテーブルに置きながら、貴史達に自分の小屋の半分を占領している野菜の山を示した。
オラフは不敵に笑った。
ヤースミーンは野菜を選んでいたが、やがて見繕った野菜を貴史に運ぶように指示した。貴史はムッとしながらも野菜を運び始めた。
二人の様子を腕組みをして見ていたオラフはヤースミーンに話し始めた。
ヤースミーンは口を押さえた。そして申し訳なさそうに言った。
オラフはビール樽を指さしてにやりと笑って見せた。
荷車に野菜を積み終わった貴史とヤースミーンがオラフに別れを告げようとすると、オラフは堅そうな木の棒を貴史に投げてよこした。
貴史は棒を受け止めると振ってバランスを確かめてみた。オラフの身長ほどの長さの棒は軽くて手になじんだ。
貴史が礼を言うとオラフは小屋の戸口で片手を上げて答えた。
北国の冬は日没が早い。貴史とヤースミーンはギルガメッシュへの帰路を急いだ。
貴史は答えに詰まった。ヤースミーンは貴史を問いつめるわけではなくフフッと笑っている。
その時、道の周囲の森からカサカサと落ち葉を踏む音が聞こえてきた。
ヤースミーンが表情を険しくしてつぶやいた。
貴史はオラフにもらった木の棒を握りしめた。