第15話 パープルラビットの末路

文字数 2,437文字

カサカサという音は、森の中のあちこちから聞こえてくる。
囲まれているみたいだ。このまま突破することは出来ないかな

貴史はヤースミーンに問いかけたが返事はなかった。振り返ってみると、彼女は荷車に寄りかかって眠っていた。



貴史はオラフとヤースミーンが野菜を盗むウサギたちは眠りの魔法を使うと言っていたことを思い出した。それは野ウサギではなく魔物で、その名はパープルラビットらしい。

しっかりしろヤースミーン。眠ったらそのままやられてしまう

揺り起こそうとしてもヤースミーンは目覚めない。貴史はヤースミーンを担ぎ上げて荷車の野菜の隙間に寝かせた。



そして荷車を引いて足早にその場を離れようとした。貴史自身も眠気を感じ始めていたからだ。



ウサギの魔物に食われるとは思わないが、寝ている間にとどめを刺さして、野菜を奪うつもりかも知れない。貴史は眠気を振り払いながら歩みを進めた。



オラフの小屋を出てから、既にかなりの道程を歩いている。もうすぐ森を抜けるはずだ。



その時、何かが道の真ん中に飛び出してきた。姿はウサギに似ているが大きさはシェパード犬くらいで額には大きな角が1本ある。そして全身がふかふかした紫色の毛に覆われている。


・・・・

パープルラビットが姿を現して襲ってきたのだ 。



貴史は足を止めた。荷車を引くための引き手の木枠に囲まれていて動きづらい。



貴史は引き手から手を放すと、オラフがくれた棒を手に取った。そして荷車の引き手を飛び越えるとパープルラビットに向かって一歩二歩と距離を詰めた。



すると、パープルラビットもじりじりと間合いを詰めてきた。そして一瞬の間に額の鋭い角をかざして貴史に襲いかかってきた。


そう簡単にやられるか

貴史は中段の構えから、突きを繰り出した。貴史は小学生の頃は剣道を習っていたのだ。



カツン。



貴史が繰り出した突きを、パープルラビットは角で受けていた。



棒の先端に刺さったパープルラビットの角を振り払った貴史は右、左と立て続けに打ち込んだ。しかし、パープルラビットは鋭い角を巧みに振りかざして貴史の打撃を受け止めていた。



一歩引いて態勢を整えようとした貴史はスラリンと戦ったときのことを思い出した。一瞬でも気を抜いた時、敵は見逃してくれない。


来る!?

貴史が気を引き締めるのと同時に、パープルラビットは跳躍していた。



槍のような鋭い角がパープルラビットの全体重を乗せて飛んでくる。貴史は棒を横に構えて必死で防いだ。



ガツンと重い衝撃と共にパープルラビットの角は貴史が構えた棒に突き刺さった。こうなるとパープルラビットは跳躍したのが徒となった。



角が棒に刺さったために宙づりになり、引き抜くことが出来ないのだ。



じたばたとあがくパープルラビットを棒と一緒に持ち上げたまま、貴史は右脚を上げた。そして、コンパクトに折りたたんでから力一杯蹴った。



パープルラビットは貴史に蹴られて近くの立木にたたきつけられた。地面に落ちたパープルラビットが起きあがろうとするところに貴史は力任せに棒をたたきつけた。



オラフがくれた棒は破片を飛び散らせながらへし折れた。しかし、頭部を強打されたパープルラビットも白目をむいて痙攣している。



貴史は荷車に積んであった荷造り用のひもで素早くパープルラビットの前脚と後脚を縛り上げると荷車の荷台に放り出した。そして、大急ぎで荷車を引いてその場を離れた。



何かの触手が伸びてくるように眠気が貴史を絡め取ろうとしたが、必死で荷車を引くうちにどうにか森を抜けた。



森を出て草原を進むうちに、貴史が感じてた眠気も消えていった。


ふわ。どうしたんですかこのうさちゃん

ギルガメッシュが見えてくる辺りで貴史の後から声が聞こえた。ヤースミーンが眠りから目覚めて、隣に転がされているパープルラビットに気がついたようだ。


パープルラビットだよ。森の中で襲いかかってきたんだ
魔物の死体と一緒に運ばないでくださいよ。そう言えば私はいつの間に寝てしまったんだろう
森の中にこいつの仲間が沢山いて、眠りの魔法をかけてきたんだよ
それってやばかったんじゃないですか。よく倒せましたね
ヤースミーンは荷台からすとんと飛び降りると、貴史と一緒に荷車を引き始めた。
オラフさんはあんな連中に囲まれていてよく無事だよな
天然で魔法をはじき返せる人もいるのですよ


貴史とヤースミーンがギルガメッシュに戻ると、気配に気がついたのかタリーが出迎えてくれた。

ご苦労、オラフさんはちゃんと野菜を準備していたようだな

上機嫌のタリーに、貴史は文句を言う


こんなのが待ち構えているならあらかじめ言っといてくださいよ

貴史が荷台のパープルラビットを指さすと、タリーは相好を崩した。


俺はシマダタカシなら大丈夫だと信じていたよ。それに、いいもの捕まえてきたじゃないか。早速解体して食料庫に入れておこう

これも食べる気なのか。紫色のウサギには食欲を感じていなかった貴史はちょっとげんなりしたが、タリーはお構いなしにパープルラビットの耳をつかんでぶら下げると貴史達を手招きした。



タリーはギルガメッシュの裏手に獲物の解体場を整備していた。パープルラビットを逆さづりにしたタリーはナイフで首の辺りをざくりと突き刺して血抜きをして、次は皮を剥ぎ始めた。


こっちを引っ張ってくれ

タリーの指示で剥ぎかけた皮の縁を持って引っ張ると、意外と簡単に皮は剥けていく。



貴史は子供の頃おばあちゃんに聞かせて貰った因幡の白ウサギの話を思い出した。鮫を騙したウサギは怒った鮫に皮を剥がれて泣いているところを通りかかった神様に助けて貰うのだが、本当に皮を剥がれては泣くどころの話ではないなと、貴史は思う。



タリーは内蔵を取り出して捨てると、手際よく後ろ足や前足を切り離していく、こうなるとお肉に見えてくるから不思議なものだ。

こいつの群れがいるなら、あと何匹か捕まえておきたいな。グリーンドラゴンよりは倒しやすいだろう
でもこいつら眠りの魔法をかけてくるんですよ
為せばなる



タリーは思惑ありげに微笑んだ。

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