第36話 ブレイズの剣
文字数 2,175文字
ハインリッヒ王の宮殿はヒマリア王国の首都イアトペスの中央部に位置している。貴史と、タリー、そしてヤースミーンは賓客として宮殿に滞在していた。
ヒマリア王国内に突如出現した魔物が巣食うダンジョンのボス、エレファントキングを退治した件で褒賞を与えるから首都まで来るようにと特使が使わされたのだ。
貴史たちはゲルハルト王子の部隊から譲り受けた馬に乗り、一週間に及ぶ旅をして首都にたどり着き、王宮のゲストハウスで旅の疲れをいやしていた。
今日は、ハインリッヒ王と大司教に謁見を許されるというので3人はゲストルームのダイニングで待機していた。
貴史は王室付きの仕立て屋があつらえた礼服に着替えたが、襟の辺りが窮屈で椅子に座っても落ち着かない。
タリーは、世慣れているためか比較的落ち着いている。
ヤースミーンは魔法系少女キャラが持っていそうな先端に星が付いた棒を片手で振りながら言った。
ドラゴンスレイヤーソードは片手では持ち上げられないくらいずっしりと重いが、貴史は鍛錬を重ねて自在に振り回せるまでになっていた。
ヤースミーンは貴史が剣を手に持つと同時になにかの呪文を唱え始めた。
貴史がきょとんとして見ているうちに、ヤースミーンは呪文を唱え終え、手に持った棒を一振りする。
ヤースミーンの棒からほとばしった青白い光が貴史が手に持った剣を包んだ瞬間、貴史は剣の重さが軽くなったのを感じた。
あれほど重かった剣が片手で軽々と扱える。貴史は大剣を上下に左右にぶんぶんと振り回してみた。
重量のあるドラゴンスレイヤーソードの切っ先が自分の鼻先をかすめたので、タリーがたまらず止めにかかった。
貴史は振り回していた剣をピタッと止めると鞘に納める。
貴史は納得した。それなら大型の竜とも戦えるというものだ。この剣のかつての持ち主のブレイズもそうやって戦っていたに違いない。
貴史の考えを読んでいたようにヤースミーンが口を開いた。
貴史はタリーのもとにグリーンドラゴンが持ち込まれた時、ドラゴンの肉はタリーが使ったが、それ以外の皮や腱、うろこや骨といった品物を求めて様々な商人が訪ねてきたことを思い出した。
それらの品々は工芸品の材料として高値で取引されるのだ。
そのため、ドラゴンを探して狩ることで生計を立てる人たちもいる。
とりわけ、ドラゴンにとどめを刺す役割は刃刺しと呼ばれ、刃刺しを務めるものはまるで一国の王のような待遇を受けているらしい。
俺にそんな役割をしろと言うのかなと考えながら貴史は鞘に収まった剣を見た。
剣の柄には元の持ち主、ブレイズの名前が象嵌細工で入れてある。
その時、貴史はまずいことに気が付いた。自分たちはこれから謁見する大司教に、エレファントキング討伐の褒美としてヤースミーンの仲間たちの復活を頼むつもりだ。
それはとりもなおさず、ヤースミーンが思いを寄せていたブレイズも復活するということだ。
ヤースミーンも途中で自信がなくなってきた様子だ。
その時、使いの者が貴史たちが控える部屋をノックした。
三人は顔を見合わせた。
ヤースミーンは顔を引き締めると貴史にうなずいて見せた。