第106話 ララアの生活
文字数 2,276文字
ヤンが傷を治してくれたので貴史もようやく話に加わる余裕が出来た。
それでも、貴史にとって刃を交えたばかりのセーラは微妙に近づき難いものがあって、距離をおこうとしていると彼女はあっさりと貴史の気持ちを見透かしていた。
貴史はぎごちなく相槌を打ちながらセーラの隣に座り、その横にはヤースミーンが来る。
微妙な緊張をはらんだ大テーブルの皆に、店の奥からトロールのペーターが声を掛ける。
ヤンの言葉にペーターが怪訝な顔をするが、ララアは懐かしそうな表情でペーターに説明する。
私とこの人達は依然同じ酒場で暮らしていました。そこの経営主兼コックのタリーという人が、その辺に居る魔物を美味しく料理してしまう変人だったのです。以前食べたメガスネイルのエスカルゴ風をもう一度食べたいと思う事が時々ありますね
ペーターは冗談とも本気ともつかない雰囲気で話すが、生真面目なヤースミーンはそれに答える
ヤースミーンは、ララアが無邪気に船を見たがっていると思っただけだったが、ララアの目は獲物を見つけた野獣のように輝く。
ララアの近くに座ったソフィアが話しに加わった。
ガイアレギオンの一隊がこのお店の勘定を踏み倒そうとした時に、ララ先生とセーラさんがその連中をとっちめた上で船まで引きずって行って、お勘定相当額を支払わせたのですけど、ララ先生はもう少しで船を乗っ取って自分の物にしそうでしたものね
貴史はララアとセーラが盛大に暴れる様を想像して背筋が寒くなる思いだったが、二人が味方になった今はむしろ、頼もしいことだと思いなおした。
そして、この二人がペーターの店一軒の用心棒をしていることが不思議に感じられる。
そんな訳ないやろ。このお二人はこの商店街全体の治安を維持する自警団として商店街の会長に委託されて警備を引き受けてくれているんや。お二人で山の手にある豪邸をシェアしてお住まいなんやで。この店に入り浸っているのはわしの料理がおいしいからや
意外なことに、セーラとララアは貴史達の能力を高く評価してスカウトしようとするが、貴史はドラゴンハンティングチームのことを思い出した。
私にはヴィシュヌと言う名の兄がいたのです。私の国が滅ぼざれた時にヴィシュヌは海を越えた東の大陸に遠征に出ていたので、部下たちと一緒に生き延びて子孫が暮らしている場所があるかもしれないと思い、探しに行きたいと思っているのです。
貴史はララアの心がヒマリアの民への復讐以外に向いていることを知り、少なからずうれしかった。
ララアの言葉に便乗してペーターも話しに加わる
ネーレイド号見学の話が盛り上がっている間に、ペーターは得体のしれない料理を皆の前に運んで来たが、貴史が一口食べると、口の中に穏やかな旨味が広がった。
一緒に食事をするうちに、セーラやペーターたちと打ち解けた雰囲気になり、貴史達はララアやペーター達をネーレイド号に案内することになったのだった。