第52話 対ドラゴントラップ
文字数 2,288文字
森の奥から今度は口笛が聞こえる。
それは高くそして次には低く何かの旋律を奏でるように響く。
ヤースミーンは両手を握りしめて口のあたりにあてている。
貴史が歯が浮きそうなセリフでフォローするとヤースミーンはまんざらでもなさそうな表情に変わる。
貴史が確認を兼ねて尋ねると、リヒターがうなずく。
貴史とヤースミーンは顔を見合わせた。リヒターの狩の技術はあてになりそうだ。
やがて、森の向こうから地響きがし始めた。
大型のドラゴンがこちらに向かってくる音だ。
ヤースミーンがクロスボウをかかえて、ホルストが穴を掘っている場所から倒木をまたぎ超えていく。
貴史とリヒターは岩陰に移動した。
リヒターは担いできたワイヤーを抵抗なく出ていくようにきれいに積み上げるとその先にクロスボウの矢をつないだ。
リヒターはそう言い残すと森の中に消えていった。
貴史が岩陰から覗いていると、森の梢から頭を出してレッドドラゴンが近づいていた。
倒木に近づいたところでヤースミーンがクロスボウを発射する。
例によって、クロスボウはレッドドラゴンの急所に近いところに突き刺さり、レッドドラゴンの上げる咆哮は貴史の所まで響いてきた。
ヤースミーンは発射と同時にダッシュで逃げてくる。
逃げ足の速いヤースミーンはあっという間に倒木を超え、ホルストが作ったトラップを迂回して走ったが、トラップに気を取られたのか石に躓いてころんだ。
ヤースミーンがすぐに立ち上がらないので、物陰からホルストが走り出て助け起こすが、レッドドラゴンは倒木の向こう側まで来て大きな口を開けていた。
炎のブレスを吹くつもりだ。
貴史は岩陰から飛び出したが間に合いそうもなかった。
しかし、レッドドラゴンのブレスが、ホルストとヤースミーンの直前まで伸びた時、そこに青い光の壁が出現する。
レッドドラゴンのブレスは壁にさえぎられてヤースミーンたちは無事のようだ。
貴史は何かの気配を感じて横を見た。
そこにはキャンプに残っていたはずのララアが、青白い光に包まれて中空に浮いていた。
ララアは何かの呪文を詠唱しながら右手を上げる。
それと同時にララアの背後から光る球体が五つ頭上に上昇していく。
そして、ララアが気合と共に右手を振り下ろすと光る球体は光の尾を引きながらレッドドラゴンまで突進した。レッドドラゴンの体にぶつかると光の玉は小爆発を起こす。
レッドドラゴンはララアの姿を認識して突進しようとする。邪魔になる倒木をまたいでスピードを上げようとしたときに、ホルストの仕掛けたトラップが作動した
バシッ
強力なスプリングで作動するトラップはレッドドラゴンの足首にしっかりと食い込んでいた。
突進しようとしていたレッドドラゴンは、トラップに足をとらえて派手に転倒する。
地響きが静まった時、ホルストとヤースミーンが貴史のいる岩陰に飛び込んできた。
ヤースミーンはララアに礼を言いながらリヒターが準備した矢をクロスボウに装填しようとする。
しかし、クロスボウが強力なので弓に装填するには相当な力がいる。
走って疲れているせいか、ヤースミーンはなかなかセットできなかった。
貴史は、この武器ってここが問題なんだよなと思いながら、ヤースミーンからクロスボウを取り上げると、クロスボウ付属の梃子の機能を使ってガチョンと装填してやった。