第29話 ガネーシャ降臨

文字数 2,023文字

ガネーシャはヒマリア軍の一部が前線にいた指揮官の退路を確保しているのを認めた。


指揮官が王族だったとでもいうのか?

予想外の大物が罠に掛かったらしい。




前線の兵士は頑丈そうな大きな盾を体の前に持ち、隊列を組んでガネーシャの前に立ちふさがろうとしている。そんなかさばる物をダンジョンの奥までよく持ってこられたものだ。



ガネーシャは念動力で兵士たちをなぎ倒した。隊形が崩れたところにトンキーとワンリーが率いる三つ目の象たちがなだれ込んだ。



三つ目の象たちは体の大きさを生かして、兵士たちを踏みつぶしながら蹂躙した。ガネーシャが退人格闘戦を行うときの基本戦術だ。



洞窟の奥の方ではレッドドラゴンのゴンちゃんが、ブレス攻撃で残っているヒマリア軍兵士を掃討している気配がする。ヒマリア軍はすでに総崩れに近い。



この半月ほどの間に、ダンジョンの最深部まで入り込んだ冒険者によって、三つ目の象の花子とグリーンドラゴンのドラちゃんが相次いで犠牲になっていた。


今日はかたきを取ってやらねば。



ガネーシャはマントを翻して駆け出し、多くの兵士に守られて退却する指揮官を追った。



王族とすればおそらく、ゲルハルト王子だろう。ここで息の根を止めておけばヒマリア国の勢いをそぐことができる。



迫ってくるガネーシャを見てほとんどの兵士は逃げ惑ったが、わが身を顧みずにガネーシャの前に立ちふさがる兵士もいた。

ふっ、忠義だても命あってのものだろうに、いずれにしてもご苦労なことだな


立ちふさがったのは武勇に自信のある兵士らしく、ガネーシャに対して果敢に戦いを挑んでくる。しかし、ガネーシャの膂力は並の人間を凌駕していた。



立ち向かってきた兵士達は、刃渡りが一メートルを超える大剣二本を両の手で自在に操るガネーシャを相手に次第に守勢に立たされていく。



象の頭を持つ巨漢のガネーシャがが片手の大剣を頭上に振りかざし、もう一本の剣は逆手にもって横ざまに構えると並の兵士では、自分の間合いにすら入れない。



ガネーシャが振り下ろした斬撃をどうにか受け止めても、もう一本の剣が横ざまに襲ってきて兵士は血しぶきをあげて倒れる。



ガネーシャは立ちふさがる兵士たちを次々に倒しながら、次第に大空洞の端に近づいて行った。大空洞から通路につながる出入り口には頑丈な扉が付けられている。



空洞にいた兵士たちは我先にと出入り口に殺到していたが、指揮官を守る兵達が、押し合いへし合いする他の兵士に武器を向けてまで、退却路を固め始めた。




やがて、ヒマリアを含むパンゲア大陸北部で使われる言語で「王子を頼んだぞ。」と叫ぶ声が聞こえ、

扉はゆっくりと閉まり始めた。扉を閉めている兵士たちは身を犠牲にして逃げる者たちの時間を稼ぐつもりだ。






無駄なことを。どのみち、地下一階をふさいでいるから袋の鼠だ。上層階から降りてくるアンデッドコボルト達と挟撃してやる


ガネーシャは扉を死守しようとする兵士たちをさらに一人、また一人と倒していく。



扉の前には数人の魔導士が甲冑の兵士に守られて横一列に並んでいた。魔導士達はそれぞれが呪文を詠唱している。やがて魔導士の前面に立ち並んでいた甲冑の兵士たちは一斉に脇によけ、魔導士たちがガネーシャに向けて魔法攻撃を放った。



炎と雷撃が魔導士たちの杖からほとばしりガネーシャに迫る。しかし、それらはガネーシャの目前で突然出現した光る壁に阻まれた。そして炎も雷撃も来た時と同じ勢いで術者の方にはじき返されていく。



扉を守備していた精鋭の魔導士部隊は自らの攻撃を受けて紅蓮の炎に包まれた。



その傍らでは、逃げ惑う兵士達を三つ目の象の部隊が追い立てる。



相当な人数が象たちに踏み潰され、あるいは鋭い牙で突き刺された。



その時、生き残っていた士官が兵士達をまとめはじめた。盾や甲冑をフル装備した兵士たちが円陣を組んで防御態勢を整えていく。



ガネーシャが最後に残った一団に向かって剣を構えた時、シュッっと風を切る音が聞こえた。ガネーシャは瞬時に反応して飛んできた矢を剣で払い落とした。しかし、間髪を入れず二の矢がガネーシャの顔面に迫っていた。



矢が刺さる寸前にガネーシャは鼻を使って矢をからめとった。小憎らしいほどの連携攻撃だ。



武術に秀でた騎士は飛んでくる矢を容易に払い落とすが、優れたアーチャーは仲間と連携して時間差攻撃で騎士を仕留めるという。



射手を探すガネーシャの目に、見覚えのある黒地に赤い刺繍が入った魔導士のローブが見えた。



三つ目の像の魔物の花子を殺した冒険者達の生き残りのようだ。ガネーシャは一人残った魔導士が魔法も使えなくなり立ちすくんでいる様子が哀れで見逃してやったことを思い出した。



ダンジョンの最深部で魔法も使えないならば、いずれ下級な魔物に捕らわれるだろうと思っていたが、どうにかして生き伸びていたのだ。



邪魔をするなら今度は生かしてはおかぬ
ガネーシャは念動力で魔導士を吹き飛ばした。小柄な魔導士は瞬時に宙を舞って石畳にたたきつけられた。
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