第37話 顔がでかい
文字数 2,249文字
侍従は慇懃に告げて傍らに立つが、背後には完全武装の護衛兵が立っている。彼らはいつでも抜剣できる状態で、丸腰の貴史たちがおかしな真似をしたら即座に切り刻まれることは想像に難くなかった。
侍従の声とともに謁見の間に姿を現したのは質素な身なりの小太りなおっさんだった。
エレファントキングの打倒大儀でした。ゲルハルト王子が大軍を差し向けている中、先んじて敵の首領を倒すとは並大抵ではない武勲です。私からも褒章の品をお渡しするが、後ほど、願い出があった件について大司教と面会できるように取り計らいましょう
貴史は事実関係がちょっと違って来ている気がしたが、細かいことは気にしないことにした。大事なのは、かつての仲間を蘇らせたいというヤースミーンの願いをかなえることだ。
ハインリッヒ王はさらに近づいて一人一人に言葉をかけようとしたが、侍従の一人が制止した。得体のしれない冒険者風情にこれ以上近づけたくなかったのだろう。
ハインリッヒ王は侍従達に不満げな顔を見せたが、あきらめて貴史たちに会釈をくれて退室した。
侍従に促されて貴史たちは国王の謁見の間から追い立てられるように出てくると、豪奢な廊下を歩いた。
しばらく歩くと長い廊下の中ほどで貴史達を待ち受けている人がいた。
タリーはかしこまってこたえる。
王子は気さくに手を振って貴史達と別れた。
侍従たちは、貴史たちをさらに案内する。廊下のところどころに、分厚い扉が設けられ、完全武装の兵士が大勢たむろしている。先ほどのハインリッヒ王の警護状況と比べて、厳重な警戒ぶりが際立っている。
最後の扉を抜けると大きな吹き抜けの空間が広がっていた。
淡い色調の床が広がり、高い天井も同系色で統一されている。中央の辺りにいるのが大司教のようだ。
部屋の中央部を見た貴史は思わず目をこすった。そこまでの距離を考えると、ありえないような大きな顔が見えたからだ。
顔がでかい!貴史は心の中で叫んでいた。それは、普通の尺度で言う顔がでかいとは意味合いが違っていた。
直径が1メートルを超える頭部がクッションに支えられてこちらを向いていて、到底その頭を支えられそうにない比較的普通のサイズの胴体が申し訳のようにくっついている。
侍従が貴史たちに注意したので、貴史は凝固した。
どうしよう。俺はさっきから顔がでかいとか化け物みたいだとか、頭の中で連呼していたような気がする。この人注意するのが遅いんだよな。
しかし、それはタリーとヤースミーンも同じのようだった。ヤースミーンは口を手で押さえて立ち止まっているし、タリーも下を向いている。
その時貴史の頭の中で声が響いた。
大司教は先ほど同じ姿勢でクッションに支えられていて、大きな目と巨大な鉤鼻、そして微笑を浮かべたような巨大な口が悪夢に出てくる顔のようだった。
大司教は間近に来た貴史たちを目だけを動かして凝視した。
貴史は自分では身動きができないのかもしれないと考えたところで、思考を止めた。余計なことを考えそうな気がしたからだ。大司教の脇には二人の小姓が控えていた。