第104話 用心棒は武闘派だった
文字数 2,179文字
ヤンの財布は少女の上着のポケットからだされると、けたたましい笑い声を上げ、少女が身をすくめている間に、ヤンは少女から財布を取り戻した
ヤンと口論していたトロールは女性の後ろで腕組みをして貴史達を睨んでいる。
スリをした少女は立ち去るわけにもいかなくなり、居心地悪そうにその場に立っていた。
ヤンは貴史に近寄ると耳打ちした。
ヤンと貴史が会話している瞬間にセーラは床をけって貴史に突進した。
黒い影が足元に飛び込むのを見て、貴史は思わず片足をあげたが、その足があった場所にはダガーが深々と突き刺さっていた。
貴史は至近距離に飛び込んだセーラに剣を構えなおしたが、セーラは床に刺さったダガーを引き抜くとジャンプしながらバック転して間合いを取った。
着地してダガーを構えたセーラには一分の隙も無い。
ヤンの治癒魔法で一命をとりとめたものの、傷口から内臓が飛び出した時の傷みは忘れられるものではない。
セーラのセリフを聞いていると、貴史は貧血を起こして倒れそうだった。
貴史はセーラの隙を探してじりじりと回り込み、セーラもそれに応じて微妙に構えを変える。
貴史は、先ほどのようにセーラに懐に飛び込まれるよりは、こちらから攻撃しようと思い一歩踏み込んでセーラに切りつけた。
見ると彼女はダガーを持ち換えて前腕に沿うように構えて貴史の剣を受け止めたのだ。
思った通りかなりの使い手だと判り、貴史はさらに緊張の度合いを高める。
セーラが余裕たっぷりに話すさまが、貴史を逆上させ、もはやセーラの血を見ることに躊躇しない気分になっていた。
その合間にセーラのダガーが閃き、貴史の剣を握っている右手の親指から血が吹き出した。
むしろヤースミーンに攻撃支援魔法をかけてもらった方が良かったのではないかと思うが、彼女は攻撃魔法の詠唱に没頭している。
そして、ヤースミーンが詠唱を始めてまだ一分も経過していないのは明らかだった。
貴史が半ば絶望しながら入り口を見ると、明るい外の風景を背に小さな人影がシルエットとなって立っているのが見えた。