第38話 大司教の審問
文字数 2,169文字
ヤースミーンは必死に大司教に訴えるが、大司教は耳を貸さない。
ヤースミーンは沈黙した。そして長い時間が経ったように感じられた後でぽつりと言った。
謁見室を沈黙が支配した。
まるで悪いことをして審問されているようだと貴史は考える。
そして、それに応えるように、大司教の声が頭の中に響いた。
大司教の「声」に呼応して侍従たちが走り回って準備を始めた。ある者は大司教の前の床に魔法陣を書き、他の者たちは布や儀式の道具らしきものを運んでくる。
やがて、準備が整ったらしく侍従たちがそれぞれの持ち場で待機を始めた時、謁見室は目もくらむような光に満たされた。
目を開けていられないほどにまぶしい光の中で、床の魔法人の上に三体の人型が見え始めていた。
光が薄れていく時には魔法人の上には、貴史が死体として見たことがあるブレイズ、アリサ、ヤンの 三人が横たわっていた。
貴史がしげしげと眺めていると右足に激痛が走った。
ヤースミーンは侍従達に介抱されているかつての仲間に駆け寄っていく。
貴史とタリーもその後を追った。
最初に意識がはっきりしてきたのはブレイズだった。
焦点が合っていなかった彼の目はやがて周囲の光景を映し始めたようだ。
周囲を見回したブレイズはやがて、ヤースミーンの顔を認めた。
ブレイズは立て続けにヤースミーンに訊ねながら、自分の手のひらを見つめている。
アリサが、大人びた雰囲気で二人をたしなめると立ち上がった。
何気なく振り返った彼女は、大司教の姿を認めると驚愕の表情を浮かべて後ずさった。
ブレイズとヤンも大司教の姿を見て畏怖の表情であとずさった。
謁見の時間の終わりだった。貴史たちは、ブレイズ達3人と一かたまりになって謁見の間を後にした。
侍従長はうなずいて引き下がった。
心の中で響く声に重なって、大司教の顔から微かに声が漏れた。
笑っているのだ。
侍従長は大司教の機嫌がよいので安堵した。