第54話 神獣を冒瀆する者は赦さない
文字数 2,027文字
ドラゴンハンティングチームは分業化が進んだ機能的な集団だ。
ドラゴンを倒すための戦闘を行う刃刺しを中心とした捕獲隊はドラゴンを探索して息の根を止めるまでを受け持っている。
ドラゴンが倒されたら解体チームが手早くドラゴンを解体して利用可能部位を切り分け、工業用の原料に使える部分を輸送に耐えるように加工するのだ。
貴史がドラゴンにとどめを刺すのと同時に、どこからともなく現れた解体チームがドラゴンに取りついてその巨体を解体し始めていた。
こうなると、捕獲の主役となる貴史も手持無沙汰だ。
解体されるドラゴンを前にしてホルストは毛布を羽織って、うなだれていた。
ホルストのぼやきを耳にしたヤースミーンは彼を元気づけようとして口を開いた。
ヤースミーンの言葉を聞いて、ホルストはため息をついてうなだれた。
ヤースミーン、それはフォローする方向性が違うよと貴史は思ったが、いまさらどうにもならないので何も言わないことにした。
解体が進むドラゴンを前にして、クリストはリヒターを捕まえて相談を始める。
リヒターはチームの総括の責任者なので、その発言力は強い。
リヒターは、クリストの言葉を聞いて首を傾げてみせる。
リヒターは少し考えていたが、仕方なさそうにうなずくと解体チームに指示を伝えに向かった。
解体チームの手で一時間もたたないうちにドラゴンは解体・梱包された。
そして、ドラゴンハンティングチームの渉外担当が手配した隊商たちが次々と到着し梱包されたドラゴンを運び始めた。
隊商を中心に、レイナ姫たちが築いた村から避難してきた住民たちも歩き始め、一行の人数は膨れ上がる。
貴史は列の中ほどをヤースミーンと一緒にゆっくりと歩いていた。
貴史は、ドラゴンが倒れた時にその背中にいたので、一緒に地面に叩きつけられて打撲傷を負っていた。
ララアはやせ我慢気味に痛みをこらえて歩く貴史を見て、聞きなれない呪文を詠唱し始めた。
ヤースミーンがハッとした表情で振り向くが、その時にはララアは呪文を唱え終えて、貴史に向かって杖を振る。
ララアの杖からほとばしるように放たれた青い光は、貴史の体を包んでいた。
貴史は単純に喜んでみせるが、ララアは無言でうなずき、むしろ苦い表情で歩き続けていた。
普段は無邪気なララアの表情はいつになく暗い。
その話自体は、リヒターたちも既知で貴史たちに概略を説明してくれたことがあった。
レッドドラゴンに人を襲わせる行為は貴史やヤースミーンも快く思っていなかったが、ララアにとっては神獣を冒瀆する行為に他ならなかったようだ。
貴史はやんわりとララアが無茶をしないように釘を刺そうとする。
ララアの使う魔法はヤースミーンが使うものと異なり、強力な攻撃力を発揮するものもあるが、彼女とて使える回数には限りがあるに違いない。
ララアは再び呪文を唱えると、杖を振るう。
森を出て平原を進んでいた貴史たちの左の方向に広がる平原のはるか彼方に、大きなオークの木がぽつんと立っていたが、突然の雷鳴と共に大きな稲光がオークの幹を引き裂いていた。
裂けて倒れた幹は青白い炎を上げ、パチパチと音を立てて燃え盛る。