第88話 ヤースミーンの火加減
文字数 2,074文字
貴史達がヤヌス村に到着したときには、戦いは終盤に差し掛かっているかに見えた。
ヤヌスの村は周囲に高い城壁を張り巡らせた堅固な要塞のようになっているが、その城壁には貴史の苦手な軟体動物の白いからだが一面に張り付いて、少しづつ城壁の上に登っている。
貴史は壁一面に動く白い生き物を見て鳥肌が立つのを感じた。
それでも村人は抵抗を続けていた。時折、鋭い稲光がひらめき、城壁からばらばらとクラーケンの個体が落ちていく。
城壁の上からは数人の村人が、無数に押し寄せるクラーケンに矢を放っているが、そのうちの一人は飛んできた槍が刺さって壁の内側に落ちていく。
押し寄せたクラーケンの大半は壁にへばりついているが、手前の地面に立っているものもおり、そのうちの数体が細い棒を槍のように投げているのだ。
口で言うのは簡単だけどなと貴史は心の中でつぶやきながら剣を準備した。いつも使っているドラゴンスレイヤータイプではなく、日本刀タイプを選ぶ。
イカが相手ならば、切れ味が良い方を選んだほうがよさそうだと思ったのだ。
貴史を先頭に、固まった捕獲チームは隊列の中心にヤースミーンを置いて守りながらヤヌス村に忍び寄った。
できるだけ発見されたくないので、馬は使わず徒歩で体制を低くして丘の陰からにじり寄る。
村の手前にある丘を回り込んだところで槍を投げていたクラーケンたちが次々と倒れ始めた。
間近まで接近したタリーたちが攻撃を始めたのだ。
貴史も腹をくくって刀を抜くと駆け出した。
村の防護壁が近づくとさすがにクラーケンたちが気付き、立ち向かってくる。
貴史はクラーケンが振り回す武器をかわして刀を叩きつけたが、クラーケンの弾力のある皮膚と粘膜に阻まれてさほどの傷を与えていない。
貴史はヤースミーンが刃物は引かなければ切れないと言っていたのを思い出して、刀を引きながら振り切ると、クラーケンは両断されて崩れ落ちていた。
貴史は数体のクラーケンを斬ったところで、自分たちが村の城壁の下までたどり着いていることに気づく。
貴史が尋ねると、ヤースミーンはおもむろに魔法の詠唱を始める。
やがて、ヤースミーンが火炎の魔法を解き放つと、ヤヌス村の城壁にとりついていたクラーケンたちは次々と炎に包まれていく。
炎に包まれたクラーケンはばらばらと落下して地面の上で丸く巻き上がっていった。
あらかたのクラーケンが炎に包まれたのを見て、突入部隊のメンバーは歓声を上げたが、そのうちの一人が言った。