第116話 パールバティー号の乗客
文字数 2,265文字
アンジェリーナが指揮するネーレイド号はハヌマーンが乗っていたパールバティー号に接舷するために接近を試みたが、パールバティー号は接近するネーレイド号を見て攻撃されると思ったのか、帆をあげて逃亡を始めた。
発見した段階でその距離はにニ十キロメートル近くあったため、損傷しているとはいえパールバティー号が航走を始めると追いつくには時間が掛かる。
ハヌマーンは自分が仕立てた船ではあるが、雇われの水夫たちには厳しい目を注いでいる。
ヤースミーンが恐れげもなくハヌマーンに尋ね、ハヌマーンも平然とした雰囲気で答える。
アンジェリーナもハヌマーンの横に並んで会話に参加し、嵐の後の強い日差しを受けた海を見つめている。
アンジェリーナが言う通り、大型のガイアレギオン船は海の彼方に帆と船体がかろうじて識別できる程度で、甲板上の人の動きを見極めるのは難しいに違いない。
ネーレイド号は追跡態勢を整え、副長のレノンが指揮して向かい風に対して間切る操船を行い次第にパールバティー号との距離を縮めていった。
早朝にハヌマーンが出現し、停戦の合意がなされてから追跡を始めたのだったが、ネーレイド号は昼になる頃には、パールバティー号まで約二千メートルほどの距離に接近していた。
アンジェリーナが船員に信号用の手旗を持ってこさせ、ハヌマーンは両手に手旗を持つと信号を送り始める。
貴史がつぶやくと、アンジェリーナは親切にもハヌマーンの信号を通訳し始めた。
ハヌマーンが旗を振って何回目かのメッセージを伝えていると、パールバティー号のマストに青白赤のストライプの小さな旗が上がるのが見える
マストの上からネーレイド号の船員が知らせるとハヌマーンは手旗信号を止めた。
パールバティー号は帆をたたんでスピードを落とし始め、ネーレイドも徐々に減速を始める。
船の場合、他の船との接触は大きな損傷を追う可能性があり、接舷する場合は時間をかけてゆっくりと接近する必要があるのだ。
やがて、二つの船は舷側を接して並び、ネーレイド号の船員はパールバティー号にロープを投げて互いに数か所でロープをもやって固定した。
ヤンは温厚な笑顔を浮かべてハヌマーンに続いてパールバティー号に乗り移ろうとする。
ヤースミーンがハヌマーンに問うと、ハヌマーンは仮面の下からのんびりとした口調で答える。
貴史は冷酷非情に思えたハヌマーンが、戦いがない場面では至極温和な人物であることに驚いている。
パールバティー号の乗組員は茫然とした雰囲気でハヌマーンの期間を出迎え、貴史達をどこか恐ろしそうに見ている。
ハヌマーンは、ヤンを船室内案内しようとしたがヤースミーンが彼を呼び止めた。
ヤースミーンは足早にハヌマーンが示したドアまで進むと、ドアノブを回してドアを引き開けた。
ヤースミーンに続いて貴史とタリーが部屋に入り、その後ろからヤンが部屋を覗く。
四人が見たのはドレスアップして優雅にお茶を口にする少女の姿だった。