第30話 覚醒するヤースミーン

文字数 2,381文字

ヤースミーン!

貴史は身を潜めていた石柱の陰から走り出た。



貴史の目の前でエレファントキングが念動力で彼女を床に叩きつけたのだ。



重傷ではないようだがが、痛みにうずくまるヤースミーンに向かって、象の頭に人間の体を持つ魔物、エレファントキングが二本の剣を両の手に振りかざして迫っている。



つい先ほど、ヤースミーンとタリーはエレファントキングをクロスボウで狙撃するためににじり寄っていた。エレファントキングはヒマリア軍の兵士に集中しているから気づかれにくいと判断したのだ。



しかし、二人が至近距離から僅かな時間差でクロスボウを射かけたのに、エレファントキングは事も無げにかわした。まるで後ろに目が付いているように飛んでくる矢に反応したのだ。



そして、クロスボウを射たヤースミーンは逃げるところを発見されて逆襲された。



貴史は刀を抜くと中段に構えながら、エレファントキングに走り寄った。これといった作戦もないし勝算があるわけもない。しかし、立ち向かわないわけにはいかなかった。


...

貴史に気付いたエレファントキングは振り返りざま、するどく踏み込みながら頭上に構えた剣を振り下ろしてきた。まともに受けたら刀ごと真っ二つにされそうな勢いだ。貴史は体を開いてかろうじてかわす。



貴史の眼前にエレファントキングの巨体があった。それも貴史に斬撃をかわされたので体勢を崩しているように見える。そのまま切り付けたかったが、貴自身も片足を引く形で交わした後なのでそのままでは力を込めて刀を振れない。




右足を一歩前に出して刀を構えた時、貴史の右側から白い光がよぎった。エレファントキングが左手で繰り出した剣だ。必死で身をかがめる貴史の頭上を剣がかすめた。



一歩とびすさった貴史が再び間合いを詰めようとしたとき、横から剣を構えて飛び出す人影があった。ラインハルトだ。


...

剣を腰に構えて刺突するラインハルトをエレファントキングは左手の剣で薙ぎ払おうとする。しかし、ラインハルトも剣で受け止める。



傍らで、貴史はエレファントキングの脇を狙って切り付ける。再び頭上からエレファントキングの剣が振り下ろされ、今度は刀で受け止めた貴史は衝撃で手がしびれるのを感じた。



その時、貴史の肩をトンッと踏んでレイナ姫が跳躍した。


もらった!

彼女はエレファントキングが貴史とラインハルトに手を取られている隙に、一気に首をねらったのだ。



レイナ姫の剣がエレファントキングの首に迫った時、貴史は周囲の空間が陽炎のように揺らぐのを感じた。



ズン!。



経験があるわけではないが、貴史はダンプトラックがぶつかったような衝撃を受けて跳ね飛ばされていた。



レイナ姫とラインハルトもそれぞれが跳ね飛ばされている。大空洞の天井を支える石柱にぶつかったレイナ姫はダメージが大きかった。



エレファントキングが念動力で3人を弾き飛ばしたのだ。


三人ともそのまま伏せておれ

横から声が響き、青白い炎がほとばしった。ミッターマイヤーが火炎の魔法を使ったのだ。しかし、火炎はエレファントキングの前に出現した光る壁に阻まれてはじき返された。



火炎は跳ね返って術者のミッターマイヤーに戻っていったが、ミッターマイヤーは杖を軽く振って火炎を拭き散らした。


少しはできるようじゃの

ミッターマイヤーそうつぶやくと別の呪文をつぶやき始めた。いつもの飄々とした風貌はなりを潜め、大きく目を剥いた険しい表情をしている。



貴史は、レイナ姫の方を見た。石柱にたたきつけられて倒れた彼女にスライムのスラチンが寄り添う。そして、青白い光が彼女の体を包み始めていた。スラチンが回復魔法を使っているのだ。


...

貴史がラインハルトを見ると、彼はうなずいた。フェアでないかもしれないが二人は一斉にエレファントキングに襲い掛かった。



二人の渾身の斬撃をエレファントキングは苦も無く受け止めた。



つばぜり合いの合間に、エレファントキングの蹴りを受けた貴史の体は宙を舞った。



一人になったラインハルトはエレファントキングを相手に一歩も引かずに戦ったが、受けそこなったエレファントキングの剣が頭に当たり血しぶきをあげて倒れる。




その時、エレファントキングの前の空間がまばゆく光り輝いた。すべての魔法をはじき返していた輝く壁は端から崩壊していく。ミッターマイヤーが魔法防御を解除したのだ。




力を使い果たしたのか、ミッターマイヤーは片ひざを折りながら叫んだ。



ヤースミーン、そなたの魔法でその魔物を焼き尽くせ


傍らで戦いを見守っていたヤースミーンは戸惑った。

私はもう魔法が使えないのに

石畳に叩きつけられてクロスボウも壊れていた。ヤースミーンは火炎の魔法の呪文を詠唱したが何も起きない。



その間に、貴史の横にあった石柱から崩れた一抱えもある大理石がふわりと浮き上がると、次第に速度を増して飛び、ミッターマイヤーを直撃した。エレファントキングが念動力を使ったのだ。


ちくしょう!


貴史は立ち上がると再びエレファントキングに立ち向かっていった。



力技では勝てない。そう思った貴史は刀を下段に構えて、エレファントキングの懐に飛び込んだ。疲れた様子もないエレファントキングは鋭い斬撃を繰り出す。



貴史はかろうじてかわすと、切っ先を返した刀をはね上げた。



ザンッ。



手ごたえを感じた貴史の前に象の鼻が落ちてきてのたうち回った。エレファントキングのものだ。

やった

貴史が次の攻撃に移ろうとしたとき、エレファントキングの剣が貴史のみぞおちから背中まで刺し貫いていた。


グフッ

貴史はは口の中に血があふれるのを感じた。



エレファントキングはぐりぐりと刃先をこじりながら剣を引き抜く、貴史は倒れると痛みに体を丸めた。


シマダタカシ

ヤースミーンの叫び声が地下空洞にこだました。同時に彼女の杖からレーザービームのように青白い火炎が伸びた。




エレファントキングは一瞬のうちに炎に包まれていた。

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