第108話 夕陽に赤い帆
文字数 2,217文字
貴史は、ララアたち一行を案内して、パロの街を歩いていた。
行き先は波止場に停泊しているネーレイド号だ。
実際に、ララアはヤースミーンと肩を並べるようにして歩いている。
ヤースミーンが小柄とはいえ、子供の成長の速さは驚くほどだと貴史は思う。
ララアの剣技はスピードで大人を圧倒していたのだが、体が大きくなり体力が付けばさらに強くなるに違いなかった。
ララアを中心に話の輪が広がり、貴史ははるばる探してきた彼女が見つかって感無量だ。
貴史はつい思ったことを口にしてしまったが、ララアは考え込むそぶりを見せた。
貴史は小さくなって女性三人の後ろに続き、ヤンが貴史にそっと耳打ちした。
貴史にとっては親指を切られて痛い目に遭った後だけに、セーラが微妙に怖い存在だったりするが、これからは仲間としてやっていけばいいと改めて自分に言い聞かすのだった。
港に着くとセールを降ろしたネーレイド号はには当番の水夫が数人知る以外は、あらかたの人間は出払っている様子だ。
ララアは船のマストを見上げながら感慨深そうに話す。
その時、ネーレイド号の副長が船倉から甲板に顔を出すと、貴史達をみつけて話し始めた。
貴史はアンジェリーナたちの熱の入れ方が尋常ではないので、商品が売れるのか心配になって尋ねるが、副長は楽観的な雰囲気で答える。
ジョセフィーヌさん達が独占契約で売りたいと言っているくらいだから、売り物としては問題ないのでしょう。売上金で今度はパロの火酒や雑貨品などのヒマリア向けの商品を仕入れてヤヌス村まで積んで帰れば、ジュラ山脈を越えて運ぶ必要がないから隊商たちが高い値で買ってっくれるはずなのですよ。そうすればヤヌス村の生活も楽になります。
ララアは停泊中の帆船にはすぐに飽きたらしく、旅の途中で出会ったアンジェリーナが来ていると聞くと関心はそちらに移った様子だ。
ヤースミーンはララアの様子を見て、ヤヌス村の商品見本市の会場に行くことを思い立った。
ペーターとセーラはそれぞれ好き勝手なことを言っているが、ヤースミーンは副長に出かけると告げると皆を促して再び船を降りた。
波止場を歩くと、今しも外洋から到着した大型帆船が入港しようとしており、街の行商人たちが新たに到着した船を目指して集まりつつある。
ララアは到着した帆船んの帆桁の上で停泊に備えて帆をたたんだり、甲板で船のもやい綱を準備する水夫を眺めながらつぶやく。
貴史とヤースミーンはパロの商工会用のジョセフィーヌが準備したヤヌス村の商品見本市の会場を探すが、それは程なく見つかった。
ジョセフィーヌは会長だけあって、運搬の労力が少なくて済むようにネーレイド号が停泊する岸壁のすぐ近くの海上を押さえていたのだ。
ネーレイド号の関係者がララアとの再会を喜んでいる間も、ジョセフィーヌが連れてきたパロの商工会の関係者は着々と商品見本市の準備を勧めつつあった。
波止場ではネーレイド号と、新たに到着した帆船が並びんでいたが、夕刻になり傾いた日差しはそれぞれの船の帆を赤く染めていった。