第27話 寄せ集めの勇者たち
文字数 2,882文字
ヤースミーンは酒場のお勘定場を兼ねている宿のフロントで必要な事を説明している。
打倒エレファントキングと勇ましく出発するために、タリーたちは留守中の準備をしていた。
タリーはオラフの小屋に同居しているエルフのボーノ一家に留守番を頼んだのだ。
前世で武人だったタリーは平然としている。
貴史は敵の手ごわさを考えると気が気ではなかった。
タリーのように後のことを頼んだら二度とここに戻ってこられないような気がする。
ボーノは言葉少なく答えた。
ヤースミーンはすでに魔導士のローブを着て、杖とクロスボウを装備し終えている。
貴史も慌てて武器の準備をした。
最近使い始めた刀を抜きやすいように腰のあたりに装備し、ブレイズの大剣を背中に背負う。
貴史は刀の柄に軽く手を触れながら答えた。剣と魔法が支配するこの世界では、武器との相性は大事なのだ。
タリーと、貴史、ヤースミーンにスラチンを加えた一行は前夜に降り積もった雪を踏みしめて出発した。この世界に来てから見慣れていた風景は一面の雪景色に変貌している。
しばらく歩くと、エレファントキングの城の方から四人連れの冒険者の一行と出会った。
リーダー格らしい男がタリー達に訊ねた。
ヤースミーンは焦りの表情を浮かべた。
正規軍には魔導士部隊や専門化された特殊部隊も含まれていると聞く。先を越されては仲間たちを蘇らすことができなくなるからだ。
タリーが鷹揚に答えると、冒険者たちは旅の安全を祈る言葉を口々に唱えて立ち去って行く。
元来は気のいい連中のようだ。
冒険者たちの姿が遠ざかっていくと、ヤースミーンが口を開いた。
ヤースミーンは言葉通りに足を速めて歩き始めた。
そして、すれ違った冒険者たちの踏み後をたどって新雪を歩く労力を省こうとしている。
貴史は、懸念を口にする。
タリーは本気でエレファントキングと対決するつもりのようだ。
貴史はため息をついてヤースミーンの後を追った。
雪が降っても、魔物は現れる。タリーの一行は度々魔物と遭遇したが、貴史とスラチンが注意を引いている隙に、ヤースミーンとタリーがクロスボウで狙い撃ちにする作戦で苦も無く倒すことができた。
意外といけるのかもしれない。貴史の心の中に希望が芽生え始めた。
エレファントキングの城を間近に臨むあたりに来ると、地上に駐留するヒマリア正規軍が目についた。地下ダンジョンに潜っている本体が乗ってきた騎馬や、物資を管理する少数の兵士達だ。
雪が降り、周囲の景色が一変したためか、さっきから抜け穴の入り口を探しても見つけられないのだ。
貴史達が雪原をうろうろしていると、ズンという低い音が響き、衝撃波が波のように雪を巻き上げて雪原を渡っていった。
それまで何もなかったはずの雪原には3人の人影が出現している。
貴史達が唖然として見つめるうちに、3人は何やらもめ始めた。
聞き覚えのある声に、ヤースミーンが話しかける。
だが、貴史達に背を向けていた三人は気が付かずにもめ続けていた。
ヤースミーンがさらに大きな声を出したので、三人はやっと気が付いて振り返った。
ミッターマイヤーの問いにヤースミーンが答えると、ラインハルトは雪の中に踏み出しながら言った。
皆がラインハルトの姿が消えたあたりに集まってみると、彼は雪で入り口が隠れた竪穴に落ち込んでいた。
そして、それこそが探していた洞窟の入り口だった。
穴の底で痛みをこらえながら勝ち誇るラインハルトに皆は苦笑するしかなかった。
一旦ラインハルトを穴から引っぱり上げたレイナ姫たちに、ヤースミーンは、戦いで倒れた友人たちを蘇らせるために、エレファントキングを倒しに向かっていると告げる。
レイナ姫は即座に答えた。
レイナ姫の言葉にヤースミーンはかしこまって礼をする。
メンバーが増えた一行はダンジョンの奥を目指して、次々と狭い抜け穴に入った。