第10話 ダンジョン侵入
文字数 2,299文字
貴史達三人とスライム一匹はレイナ姫たちの後を追ってエレファントキングの城を目指して進む。
貴史はヤースミーンが担いでいる武器が気になった。
貴史はこけた。
自分で装填できない飛び道具を与えられても使い物にならない。
しかし、ヤースミーンはクロスボウの先端部分を地面に押し当てて全身の力を使って、矢を装填しようとする。
戦力としてはあまり期待できないかもしれないが、魔導師用の黒と赤のローブを着たヤースミーンが微笑むと貴史は気分が和む。
貴史とヤースミーンの間にほのぼのとした空気が流れているとき、ラインハルトは一人緊張した面持ちで剣を抜いた。
貴史が間の抜けた声を出した時には、ラインハルトは敵と剣を交えていた。
キーン
剣と剣が打ち合わされた高い音と共に、大きめのスライムにまたがった甲冑姿の騎士が猛スピードで走り去った。
そして、緩やかに弧を描くと再びこちらに向かってくる。遠くからは更に二体のスライム騎士が高速でこちらに向かってくる。
ヤースミーンはラインハルト目がけて迫って来るスライム騎士にクロスボウを向けた。そして慎重に狙いを付けて引き金を引く。
空気を切り裂く音と共に矢は真っ直ぐにスライムナイトに向かって飛んだ。
カン。
軽い音と共に矢に貫かれた騎士が地面に転がり落ちた。
騎士を乗せていたスライムは転がり落ちた騎士のまわりをぐるぐると回っていたが、やがて自分だけ森の方へ去っていった。
他の二体のスライム騎士も危険を感じたのかきびすを返してもとの方向に戻っていく。
ヤースミーンがクロスボウを掲げて見せた。
ラインハルトが感嘆の声を上げ、三人は残された甲冑まで歩いていくとしげしげと調べた。
ヤースミーンが隙間から中をのぞき込みながら言う。
ラインハルトは気味悪そうに甲冑を見る。
スライム騎士の装備は上質の防具や武器が揃っていたが、貴史達はそのまま放置して先に進むことにした。
やがて、エレファントキングの城が間近に迫ってきた。
ラインハルトは焦燥の色を強めていた。切迫した口調で問いつめるラインハルトにヤースミーンがのんびりした雰囲気で答えた。
ヤースミーンの提案にラインハルトは渋々といった様子でうなずいた。意外と忍耐強い性格らしい。
ヤースミーンは開けた野原にピクニックシートを広げて昼食の準備を始めた。
タリーが用意してくれたのはコールドビーフとチーズ、そして野菜をパンではさんだサンドイッチだ。
コールドビーフといいながらも材料はクロゲウシドリの肉だ。
ヤースミーンはおいしそうにサンドイッチをほおばり、その横でラインハルトもまんざらでもなさそうな顔で食べている。
貴史は思い切ってラインハルトに聞いてみた。さすがにレイナ姫にはなれそめのことなど聞けなかったのだ。
貴史が尋ねると、ラインハルトはサンドイッチをかじりながら説明する
ヤースミーンがラインハルトには聞こえないように貴史の耳元で囁く。
貴史は無言でうなずいた。姫君が城の中で書類を持って歩いているのは不自然だ。どうやらラインハルトはレイナ姫に見そめられたらしい。
昼食を食べ終えて、貴史達はスラチンが教えてくれた抜け穴に入った。
先に入って先導するスラチンの声に導かれて四つんばいの姿勢で狭い穴を進む。しかし、行き着く先があると解っていればどうにか我慢できるものだ。
エレファントキングの城の奥深くでトンネルから出た一行は、立って体を伸ばせることに安堵した。
ラインハルトが腰を伸ばしながら言った。