第77話 ララアが戦うとき
文字数 2,310文字
翌朝、貴史達は城壁の上にある物見櫓に登り、押し寄せてきたガイアレギオンの新手の軍勢を目の当たりにした。
敵の軍勢はレイナ姫が追い返した前衛部隊の残存兵力を吸収したためその頭数は膨れ上がり、エレファントキングの城の前の広場を埋め尽くしていた。
貴史がヤースミーンに答えていると、横にいたレイナ姫が余裕がある表情で宣言した。
レイナ姫は隣に立っているゲルハルト王子に視線を移すと言った。
ゲルハルト王子は少しすねたような表情でレイナ姫に答える。
レイナ姫は無言でゲルハルト王子に礼をするとミッターマイヤーに命じた。
ミッターマイヤーは言葉少なく答えると、部隊に命令を伝えるため階下に降りて行った。
ラインハルトは納得した様子で広場の敵陣に視線を戻す。
貴史の横にいたララアは屋上のバルコニー周囲を囲う塀の上にヒョイと飛び上がった。
ヤースミーンがたしなめるが、ララアは無視してヒマリアの民が使うものとは異なる体系に属する呪文を唱える。
ララアが右腕を大きく上げてから振り下ろすと、雷鳴がとどろき城を取り囲む敵兵のうち、城門に向かおうとしていた集団の先頭の騎士とその周辺の数名がバタバタと倒れた。
ララアが再攻撃のためにさらに呪文を唱えているところに、レイナ姫が声をかけた。
それは、ローティーンに見えるララアを戦いに巻き込むまいと思ったレイナ姫の気遣いだったが、ララアが素直にうなずいて塀から飛び降りた瞬間に、ララアがそれまでいたあたりに冷気が渦を巻いた。
ヤースミーンが叫んだが、説明されるまでもなく貴史は身を刺すような寒さに後ずさりした。
ヒマリア国は短いとはいえ夏の最中なのに、辺り一面の空気が凍り付きそうなほど冷たくなる威力に貴史は恐怖を覚える。
敵勢は城門を目指して攻め寄せており、城壁の上から兵士たちが一斉に矢を放っていたが、気が付けば、多くの兵士が弓矢を構えたまま真っ白に凍り付いていた。
そして、城門のあたりから大きな衝撃音が響き、城壁の上にも振動が伝わってきた。
城壁から下を覗いていた兵士が叫び、城壁の内側でヒマリア軍とガイアレギオンの軍勢が剣を交える音が響き始めた。
レイナ姫が茫然としながらつぶやいたが、ララアは首を振りながら言う。
城壁の櫓に戻ってきたミッターマイヤーの呼びかけにレイナ姫は表情を引き締めると駆け出した。
ララアは既に城門から突入したガイアレギオンの兵士がひしめく城壁の下に向かって櫓の階段を駆け降りていった。
ヤースミーンが絶句しているのを見て、貴史は叫んだ。