第74話 焼きガニの鎧
文字数 2,360文字
ギルガメッシュの宿では、出発するゲルハルト王子の軍勢と一緒に貴史とヤースミーンも出発する準備を整えていた。
貴史はヤースミーンが作ってくれた新しい装備を身に着けるが、頭頂部を覆う兜をつけるときに臭いをかいで顔をしかめた。
貴史はしぶしぶ装備を付け始めたが、その横でホルストは同じタイプの装備を付けながら恐縮した雰囲気でヤースミーンに尋ねた。
多少、事情を知っていた貴史はホルストの表情を窺っておろおろしていたが、ホルストは装備を付け終わるとヤースミーンと貴史に言った。
ヤースミーンはホルストの後姿を見送ってから小声で貴史に聞いた。
貴史は簡潔に説明するものの、実はホルストが心配だ。しかし、男女の間のことは他人が口を出すわけにもいかない。
ヤースミーンが自分に言い聞かせるようにつぶやき、貴史とヤースミーンホルストの後を追ってゲルハルト王位の部隊の集結場所に向かった。
ギルガメッシュの宿から草原に向かうあたりにはちょっとした広場ができており、広場の隅にはドラゴンケバブの屋台も常設されている。
今日は広場を埋め尽くしてゲルハルト王子が率いてきた軍勢がひしめいていた。
部隊の兵士に訓示していたゲルハルト王子は貴史とヤースミーン、そしてホルストの姿を見て、兵士たちに注目を促した。
ホルストが小声でヤースミーンにささやく。
ヤースミーンが身に着けているのはいつもの黒地に赤い刺繍が入った魔導士のローブで、愛用のクロスボウを担ぎ片手には杖を持っている。
貴史は冒険や狩りに出かけるときに、自分が視野の中に彼女の姿を探していることをふと意識する。
ゲルハルト王子配下の士官が馬を準備しており、貴史達は騎乗してエレファントキングの城を目指すことになった。
騎馬を使えば道程ははかどる。貴史達は午前中にエレファントキングの城に到着した。
城内には予想に反して、ホフヌング村の住人達が集まっており、ヒマリア軍の装備を身に付けた兵士が城の入り口を固めている。
しかし、兵士達は疲れた様子で、傷を受けて手当てが必要に見える者もいた。
住民を守っていた兵士達は、味方のヒマリア正規軍の大部隊を見て安堵の表情を浮かべ、指揮を執っていた年嵩の兵士は、指揮官に会わせて欲しいと、隊列に分け入った。
その兵士は、ゲルハルト王子の姿を認めて目を見張った。
ゲルハルト王子は心配そうな表情でホフヌング村がある南東の方角を眺めたが、報告した兵士に視線を戻すと、穏やかな口調で告げる。
兵士が礼をして下がると、ゲルハルト王子はため息をついた。