第72話 期間限定のカニ料理フェア
文字数 2,144文字
貴史とヤンが大型のダンジョンガニを倒してから二日後、ギルガメッシュではダンジョンガニの料理をメインに死したフェアが開催された。
普段は食べられない幻の珍味とあって、トリプルベリーの町からも富裕層が護衛を伴って来店する盛況となった。
リヒターはどこまでも貴史を立てようとする。
貴史はギルガメッシュで提供されるタリーの手によるダンジョンガニ料理の値段を見て、目が点になる思いだったが、ぼったくりと思える値段でもわざわざ食べにくる人々はいる。
貴史は、ジュラ山脈の麓で、小ぶりなダンジョンガニを一匹丸ごと貪り食ったことを人生の良き思い出の一つに加えようかと思うくらいだった。
その時、店の外からヤースミーンが駆け込んできた。
ヤースミーンはドラゴンケバブを売る露店の指揮をするために店の表に出ていたのだ。
貴史は自分の耳を疑った。ヒマリアの王都イアトぺスからトリプルベリーまでは騎馬で数日を要するほどの距離があるから、ダンジョンガニ料理の噂を聞いてそれを食べるためにゲルハルト王子が子ギルガメッシュの宿に現れたとは考えられなかった。
それでも、貴史が賓客としてゲルハルト王子を案内しながら側近の兵士たちに話を聞くうちに、真相は次第に明らかになった。
ゲルハルト王子は、レイナ姫が建設した村が、ガイアレギオンに蹂躙されたという急報を聞いて、精鋭部隊を率いて反撃のために出陣してきたのだ。
ギルガメッシュの酒場兼レストランに案内されたゲルハルト王子とその側近の士官たちは、しばらくして運ばれてきたタリーのダンジョンガニ料理を前にして喜色満面だ。
ゲルハルト王子は鷹揚にうなずくとダンジョンガニに注意を戻した。
ゲルハルト王子がダンジョンガニの足を関節の近くでぱきっと折って引っ張ると、きれいに取れた身が割れた殻の端からぶら下がった。
ゲルハルト王子はカニの身を口に入れて咀嚼してから飲み込んだ。
タリーが嬉しそうにゲルハルト王子に告げ、ゲルハルト王子の配下の士官たちもうまそうに食事に手を付ける。
タリーの魔物料理がさらに名声を高めた瞬間だった。
ゲルハルト王子の一行がダンジョンガニ料理に舌鼓を打つ間に、貴史達はゲルハルト王子の側近にそれとなく王子の近況を尋ねる。
彼らの言葉によれば、ゲルハルト王子はヤースミーンの幼馴染のアリサを正室に迎え、近々跡継ぎの王子が生まれる予定らしい。
レイナ姫救援のために駆け付けたのも他意は無く、文字通り妹の身を案じて駆け付けたところだったのだ。
貴史が恐る恐る告げると、ゲルハルト王子はダンジョンガニの鋏の部分を、テーブルに添えられたハンマーでたたき割りながら答えた。