第20話 エレファントキングの城
文字数 2,931文字
ヤースミーンはしばらく考えた後で、顔を上げると貴史に説明を始めた。
貴史が尋ねるとヤースミーンは俯いてしまった。そして貴史と目を合わさないで言う。
ヤースミーンは日頃、貴史に何かして欲しい時は、何の遠慮もなく顎で使うタイプだ。
貴史の問いにヤースミーンが口を開きかけた時、タリーが盛り付けした料理をドンと二人の目の前に置いた。
トレイに乗せた料理をヤースミーンが運び、貴史は注文があった火酒のデキャンターを運んだ。
ギルガメッシュの二階にある部屋にノックをしてから入ると、ヤースミーンが料理の説明をした。
仮面の客は機嫌よく二人を迎えた。
レイナ姫の噂がどんどん大きくなっていることを感じ、貴史はレイナ姫たちの本国との関係を心配しながら説明した。
ベッド脇のテーブルに料理を並べたヤースミーンが部屋の壁に張ってある羊皮紙の地図を示しながら説明した。
貴史の質問に、仮面の客は手をひらひらさせて答えた。仮面の下で笑っているようだ。
気さくに言う客に貴史とヤースミーンは会釈して部屋を出た。
一階に続く階段を下りながらヤースミーンが話すが、貴史は何となく引っかかるものを感じていた。
翌朝、ミッターマイヤーと騎士たちが移住するために東へと向かう人々の警護に向かった後で、仮面の客ハヌマーンも出発することになった。
宿代を払ったハヌマーンは、東に続く道を歩いていく。
その後ろ姿を見送るうちに、貴史は自分が感じていた違和感の正体に気がついた。ハヌマーンは料理を運んで来たヤースミーンを見て「バニーさん」と言ったのだ。
タリーが作らせたコスチュームをバニーガールスタイルと呼ぶことを知っているのは、この世界では自分とタリーだけのはずだ。もしかしたらハヌマーンも転生者なのか。
貴史はハヌマーンを追いかけて問いつめたい衝動に駆られたが、この世界では闇雲に行動することは危険だった。
ハヌマーンの姿はやがて森に入り貴史の視界から消えていった。
ギルガメッシュを出たハヌマーンは、貴史たちに話したのとは逆に、真っ直ぐにエレファントキングの城に向かっていた。瞬間移動の魔法を使っても良かったが、周囲の様子も見たいから歩いてみたのだ。
やがて、城に着くと一匹のムラサキコウモリが城の中から飛んできてハヌマーンの廻りを飛び回った。旅人を襲う魔物というよりは、飼い主の友達にじゃれつく犬のような雰囲気だ。
ムラサキコウモリはぱたぱたと羽ばたきながらハヌマーンを誘導する。
エレファントキングのダンジョンは城の中程からどんどん地下に降りていく構造になっている。
冒険者のパーティーは頻繁に現れる魔物と戦い、道程に多数仕掛けられている罠も突破しなくてはならない。エレファントキングのダンジョンの最深部まで到達するには熟練した冒険者のパーティーでも最低二日はかかると言われていた。
しかし、城に住まう魔族が案内して最短距離を通れば、大して時間を取らずに最深部に到達できる。
ダンジョンの最深部にある大広間に着くと、ハヌマーンは祭壇に向かって叫んだ
君の任務は単身でヒマリヤ国の強硬偵察を行うことであって、ダンジョンをオープンして冒険者を血祭りにあげることは含まれていなかったはずだ。
正規軍でも差し向けられたら一人ではもつまいと心配していたのだよ健二君。
仮面の下から現れたのは、猿の顔だった。
他ならぬハヌマーンも猿頭の獣人だったのだ。
今ではガネーシャよりも通り名のエレファントキングと呼ばれることが多くなってしまった。
ダンジョンに宝があるといううわさを流したのは事実でもあるし、冒険者がうわさ話を運んでくれるから情報収集の手間が省けるからでもある
ともあれ。肴を用意させるから私の居室で一杯やろう
ガネーシャは右手でクイッっと一杯やる仕草をして見せた。
ハヌマーンはそんなガネーシャを見て、やはり中身はおっさんだなと改めて思う。
ガネーシャは上機嫌で振り返った。彼の前世は田辺健二という、四十才で病気のために世を去ったサラリーマンだった。
ハヌマーンも三十台半ばで交通事故で死に、気が付いたらこの世界に転生していたのだ。
ハヌマーンとガネーシャはこの世界で知り合い、互いの前世を知った後に、幾多の戦いをくぐり抜け、無二の親友となったのだ。
ガネーシャは通路の奥にある隠し扉を開けてハヌマーンを招き入れた。