第47話 つぼ焼きはサザエだけではない
文字数 2,957文字
貴史たちを見つけたオラフは嬉しそうに叫んだ。
オラフはメガスネイルのボスに石化されないように目線を避けて走り回っている。
ヤースミーンは妙に落ち着いた口調で答える。
その横でタリーは荷車から刀を持ちだすと、抜刀してメガスネイルのボスに切りつけていた。
刀は眼柄のある頭らしき部分の下に叩きつけられたが、その部分がぐにゃりとへこむだけで切れていない。
タリーはメガスネイルの粘液にまみれた刀を引きはがした。
ヤースミーンの解説が聞こえないのか、タリーは二撃目を仕掛けようとして刀を構えるが、そのままの姿勢でぱたんと横に倒れた。石化の呪いにかかってしまったのだ。
オラフは飛び上がって両手で振り上げたメイスをメガスネイルのボスの殻に振り下ろす
キンッ。
澄んだ音を立ててオラフのメイスはメガスネイルの殻にはじき返されていた。
貴史はヤースミーンをメガスネイルの方に押し出した。
ヤースミーンは文句を言いながら、魔法の詠唱を始める。
ヤースミーンは火炎の魔法でメガスネイルのボスを黒焦げにするつもりだった。
覚醒してパワーアップしたヤースミーンにとって、メガスネイル程度の魔物を消し炭にするのはたやすいことだった
しかし、ヤースミーンは自分の杖を振り上げて火炎をメガスネイルに投げつけようとした時に詠唱をやめた。
メガスネイルがその腹足を上手に使って、石化しつつあるタリーを抱え上げて盾にしたからだ。
貴史はヤースミーンのクロスボウを手に取るとメガスネイルのボスを狙って発射した。
バシッ。
貴史が射た矢は、メガスネイルの体に突き刺さったように見えたが、粘液が邪魔をしてさほどのダメージは与えていないようだ。
貴史が途方に暮れて周囲を見回すと、ララアがスライムのスラチンに乗って畑を疾走していくのが見えた。
ララアは押し寄せるメガスネイルの群れの直前を掠めるように過ぎていく。
そしてその後ろには青白い光が雪のように舞い上がりメガスネイルの群れに降り注いでいた。
青白い光が消えた時、光が降り注いだ範囲のメガスネイルたちは真っ白く凍結していた。
貴史とヤースミーンが茫然と見ている前で、近くまで戻ってきたララアはスラチンから飛び降りると荷車に駆けよっていく。
ヤースミーンが叫んだが、ララアはお構いなしにメガスネイルのボスに駆け寄っていった。
ララアは片手で、荷台に積んであった塩の袋を抱えていた。
メガスネイルのボスは、眼柄の先にある眼玉を赤く光らせ石化の光線を発しようとする。
しかし、その前にララアは右手一杯に掴んだ塩を、メガスネイルのボスの頭上に振り撒いていた。
塩の粒が降り注ぐと、メガスネイルの目玉はヒュッと引っ込んで見えなくなった。
ララアは鼻歌を歌いながら、さらに塩を撒き続ける。
メガスネイルのボスの体はどんどん縮んでからの中に引っ込んでいく。
貴史は感心してつぶやいた。
そして、メガスネイルのボスの背後に押し寄せていたメガスネイルの群れにも異変が起きていた。
ひたすら前に進んでいた大群が一斉に停止し、森に向かって後退し始めたのだ。
貴史とヤースミーンが見守っている前で、ララアは縮んでいくメガスネイルのボスに塩をまき続ける。
ついには、メガスネイルの体はからの中に引っ込んでしまい、殻は口の部分を上にして地面に転がる状態になっていた。
その傍らには、粘液まみれになったタリーも倒れている。
ヤースミーンはタリーのそばに膝まづくと、静かに呪文を詠唱し始めた。
やがて、金色の光がタリーを包んだ。
光が薄れた時、タリーはゆっくりと身動きした。
朦朧とした表情で空を見上げていたタリーは、ガバッと跳ね起きた。
ヤースミーンが指さした先ではララアが畑から掘り出したニンニクの皮をむいていた、そしてナイフの刀身でつぶしたニンニクをざっくりと刻んではメガスネイルの殻に放り込んでいく。
ヤースミーンは止めようとしたが、オラフが遮った。
ヤースミーンは石化したエルフを助けるために歩いて行った。
その間も、ララアは雪の下にの畑から掘り出したパセリの葉をちぎってメガスライムの殻に放り込み、その次には荷車から缶入りのバターを持ってきて、一缶丸ごとメガスライムの殻の中に投入した。
貴史がララアの様子を眺めながらつぶやくと、メガスライムの粘液を気持ち悪そうにぬぐい取っていたタリーが言った。
貴史がララアの意図を見定めようとしていると、彼女は何かの呪文を詠唱し始めた。
貴史がこの世界に転移した時、それを企てた神のごとき存在はヒマリアの言葉を理解する能力を与えてくれたが、ララアの言葉は理解不可能だ。
タリーが答えたがヤースミーンには何のことだかわからないようだ。
ララアはメガスネイルに程よく火が通ったところで炎を消した。
殻から中身を引き出そうとするララアをタリーが手助けする。
タリーとララアは引っ張り出した身の部分を自分のナイフで切り取り始めている。
青ざめるヤースミーンを尻目に、タリーとララアはムシャムシャと食べ始めていた。