第97話 血に捧げる祈り

二人が支援効果を使って戦える時間を少しでも長くするためだ。

側面からクロスボウを射撃して支援するつもりなのだ。

その高さは三階建ての建築物に匹敵した。

貴史がドラゴンの右側から接近すると、貴史の背後から頭上を越えて、一本の矢が飛翔し、ドラゴンの首筋辺りに深々と突き刺さった。

貴史はピリピリとした波動を感じる。

盾自体は、ドラゴンのブレスを防げる物ではないが、ヤースミーンの支援魔法が盾を構える動きに連動して防御機能を発動するのだ。

間髪をいれずに、貴史の周辺を猛烈な火焔が包み、貴史の背後の森は、パチパチと木がはぜる音と共に燃え始めた。

それでも、ヤースミーンの支援魔法の防御効果で、貴史は全く被害を受けていない。

貴史は背後にいたはずのヤースミーンが気になったが、彼女は射撃と同時に移動して居場所を変えることを思い出してドラゴンに向き直る。

リヒターはドラゴンが貴史にブレス攻撃をしている隙に、ドラゴンの背中によじ登ったのだ。

ドラゴンが身をよじったために、振り落とされそうになりながらも、リヒターは自分の剣をドラゴンに突き刺していた。

貴史はドラゴンの動きを止めるために、足元に駆け寄って攻撃を仕掛けた。

貴史はドラゴンの足首に剣を突き刺し、

全身の力を使ってドラゴンの足首を切り裂いていく。

ドラゴンの足首は鈍い衝撃音と共に不自然に変形した。

貴史の斬撃がアキレス腱を切断したのだ。

片足が使えなくなったドラゴンは背中に取り付いた敵をつぶそうと、地面を転がってから、周辺に猛烈なブレスを吐く。

一帯の森は炎上したが、リヒターはドラゴンに突進して更に剣を突き刺した。

貴史にしてもそうすることに依存はないが、傷付いたとはいえ、ドラゴンの動きは活発だ。

貴史はドラゴンの足に再び攻撃を加えてから、上体に攻撃できるチャンスを窺った。

中枢神経の集中する背骨を狙った攻撃と、アキレス腱の損傷は、確実にドラゴンの動きを低下させていた。

ドラゴンの弱点は顎の下にある一枚だけ逆向きに生えた鱗だ。

貴史の剣は、逆鱗の上から深々とドラゴンの顎に突き刺さった。

ドラゴンは激しく痙攣を起こしていたが、次第に動きを止めていく。

リヒターはドラゴンの鎖骨の内側に自分の剣を突き刺すと、グリグリと抉ってから引き抜いた。

傷口からは、真っ赤な血がとめどもなく溢れる。

そのうちに、リヒターは祈りを終えた。

貴史は血の涙を流して絶命しているように見えるドラゴンの頭部を見て後ろめたい気分になったが、自分たちのチーム員に死者が出なかったことにホッとするのだった。