第64話 ミッタマイヤーの手帳
文字数 2,237文字
貴史はレイナ姫たちがつながれている枷に剣を振るって破壊ししようとしたが、貴史の剣は木材を束ねる鋼鉄製のたがに弾かれてしまった。
貴史がつぶやくと、ミッターマイヤーは冷たい視線を投げる。
貴史は不思議そうに自分の剣を見るが、クリストは穏やかな笑顔を浮かべて言った。
貴史はクリストに褒められた気がしてなんだかうれしくなったが、ヤースミーンは話が遮られたので不機嫌にミッターマイヤーに問いかけた。
ヤースミーンは言われるままにミッターマイヤーのポケットを探る。
ヤースミーンは白けた雰囲気でポケットの中身を見分し、最後に羊皮紙でできた分厚い手帳を取り出した。
ヤースミーンは羊皮紙の手帳のページをめくり始めたが、すぐに顔を上げた。
ヤースミーンは仕方ないといった風情でぺージをめくって数え始めた。
皆が息を詰めるようにヤースミーンの手元を見つめている。外からは時折爆音が響き、ララアの攻撃が続いていることがわかる。
その時階段を駆け下りてくる足音が響き、入り口のドアが乱暴に開けられた。
貴史は剣を構えて入り口に詰め寄り、入って来たガイア・レギオンの兵士も貴史に気付いてあわてて剣の柄に手をかける。
しかし、兵士が剣を抜くことはなかった。入り口の壁に寄りかかっていたクリストが壁際に置いてあった棍棒で兵士の後頭部をしたたかに殴りつけたからだ。
クリストは兵士を壁際まで引きずっていき、ドアを元通りに閉めると再びドアの脇の壁に寄りかかった。
貴史はクリストに礼を言ってからヤースミーンを振り返ったが。ヤースミーンは泣きそうな表情で開いた手帳を見つめていた。
貴史は絶句したが、ミッターマイヤーは笑いをこらえきれない表情で言った。
ヤースミーンは気を取り直して再びページを数え始めた。そして128ページ目まで数えたところで、ミスリルの神に祈りをささげてから呪文の斉唱を始める。
しかし、呪文を聞いていたミッターマイヤーは慌てて口を開いた。
ヤースミーンはむすっとした顔で手帳に目を落とすと、ページを一枚手前に戻して再び呪文の詠唱にもどった。
しかし、呪文の斉唱があまり進まないうちにミッターマイヤーが再び彼女の斉唱をさえぎった。
ミッターマイヤー拗ねたように呟き、ヤースミーンはため息をついた。
ヤースミーンがもう一度、呪文の斉唱に取り掛かった時、貴史はブンといううなりと共に強い圧迫感を感じた。
そして、自分たちの目の前の床に先ほどまではいなかったはずの人影を認めて凍り付いた。
そこには金色の仮面をつけた戦士が立っていた。
戦士は片手に剣を持ち、もう片方の小脇に見まごうこともないララアを抱えていた。
ララアは気を失っているのかぐったりとし身動きもしない。
貴史は叫びながら剣を抜いた。