第40話 異世界にはばたく
文字数 2,518文字
首都の郊外には農村地帯が広がっているが、冬が訪れた今は一面の雪景色だ。
踏み固められた雪道を歩きながらタリーが聞く。
文句を言う貴史にタリーは真顔で礼を言う。貴史も持ち上げられるとまんざらでもなかった。
ヒマリア国の首都への旅で、貴史はブレイズのパーティーが活躍したのはヤースミーンの魔法に頼っていたことに気が付いていた。
彼女の力が復活した今、貴史が剣を振るえばこの世界で無双かもしれない。
貴史は魔物を食べることを究極のグルメだと言い張るタリーや、天然系だが強力な魔力を持つヤースミーンと共にこの世界でドラゴンハンターとして生きていけそうな気がしていた。
柄にもない空想ににふけっていた貴史は肩に食い込む剣の吊り紐の位置を直した。
貴史が使っていた剣や装備は、本来の持ち主であるブレイズが持ち去ってしまったが、ハインリッヒ王から賜った品物にはメンバー各自にあつらえた戦衣や武具が含まれていた。
貴史の剣はセットになっている盾と合わせると相当な重量だ。
貴史はヤースミーンが攻撃支援の魔法をかけてブレイズの剣を振り回したことを思い出した。振り上げるのも容易でない重さの剣が軽々と振るえる感覚だった
貴史は背中の剣の重みが逆に頼もしく感じられた。
ヤースミーンは言い訳したが、タリーと目が合うと二人はこらえきれずに笑い始めた。
貴史が少しむくれて前を向くと街道をぞろぞろ歩いてくる人々が目に入った。このあたりで農業を営んでいる住民のようだ。
貴史が問いかけると人々は口々に訴える。
タリーは既に食べることを考えている。
貴史はなんだかおかしくなって軽い足取りで、逃げてくる人々に逆らって進んだ。
やがて、煙を上げる集落の中にグリーンドラゴンの姿が見えた。
二階建ての家並みの向こうに頭が覗くほどの大きさだ。
さらに接近を試みていると、貴史と並んで歩くヤースミーンが何かの魔法の詠唱を始めた。
グリーンドラゴンが間近に迫った時、ヤースミーンは貴史に告げる。
言い終わると同時に、ヤースミーンはクロスボウを構えて素早く発射した。
矢は高速で飛び、グリーンドラゴンの喉元に突き刺さった。
ドラゴンの弱点である逆鱗があるのどを狙ったが、わずかに外れたようだ。
グリーンドラゴンは身の毛もよだつような雄たけびを上げて、貴史を睨みつけた。
貴史が周囲を見回すと、タリーもヤースミーンの姿は見当たらない。とっくに物陰に退避したのだ。
貴史が盾を構えるのと同時に、グリーンドラゴンの火炎のブレスが貴史を襲った。
貴史はサウナに入っているような暑さを感じたが、ブレスの火炎はきれいに貴史を避けていた。
貴史が感心しながら背中の邪薙ぎの剣を抜くと、家並の陰から雷鳴が響き雷の電光がグリーンドラゴンに伸びていった。ヤースミーンが魔法で攻撃したのだ。
電撃を受けたグリーンドラゴンがひるんでいる隙に貴史は剣を構えて駆け出した。
グリーンドラゴンの足元を駆け抜けながら、邪薙ぎの剣でドラゴンの足首に切り付ける。
確かな手ごたえを感じて貴史が振り返ると、足首を三分の一ほどを切断されたグリーンドラゴンは足をひきずりながら苦しんでいた。
それはタリーが射た矢で絶妙なタイミングでグリーンドラゴンの意識が貴史からそらされた。
貴史は雪に覆われた大地を蹴って剣を手にグリーンドラゴンに挑むのだった