壱 之 逆落し
文字数 887文字
立っている座っているに関わらず通勤に乗る電車で揺られていると無性に眠くなる。
朝は起きてまもないせいか、会社帰りは疲れているせいかといつも思う。
朝の通勤で運良く座席に座れたものの五つ先の駅まで微妙に
いいや寝ては駄目だと
眼にしているものに混乱し眼を
電車の車内が一変し、左右に奥へ広がるどこかの都心のビル群を見下ろしていた。
自分がどこにいるのだと、まず足元を見て顔が引き
細い腰幅にも満たない一本の鉄骨の先端近くに両足
ここはどこなのだと振り向くことですら鉄骨から足を踏み外しそうで足元のさらに下に見える光景から建築中の高層ビルのかなり上階だと理解するのに数秒をようした。
地上のダンプカーが米粒よりも遥かに小さい! 針の先端のように小さいのだ!?
絶対に数十メートルじゃない。
あそこまで百メートル以上はある。いやもしかしたら二百はあるのかもと思ってそんな場合じゃないと鉄骨の根元の方へ歩こうと
身体の揺れが収まると向きを変えず
鉄骨はどれくらい長さあるのだろう。振り向いて見ることもおぼつかない。
冗談じゃない! 冗談じゃないぞ!
なんでこんな危険な場所にいるのだと考えていると横から風が吹きつけてきて前髪が横に流され
夢遊病者のように意識なくこんな場所に来たのかと考え、そんなことがあるものかと否定して、誰かが睡眠薬でも盛って気を失っている間にここに立たせたと一瞬考えそれこそあり得ないと意識から締めだした。
今は理由を考えている場合じゃないと思いなおした。
なんとかして鉄骨から足場のしっかりした場所へ行かないとこのままでは本当に落ちてしまう。
切迫した状況に右に傾く理由に気づいた。
右手に通勤用の鞄を握りしめていた。