漆 之 穴
文字数 985文字
壁に貼り付けたものを確かめる様に見つめる。
ボールペンの芯しか通らない小さな穴を接着剤で
その上の土壁にアルミの名刺入れを
さらに上からガムテープを十字貼り、加えてバツにテープを重ねた。
壁に貼り付けたものへ安心を感じるために眺める。
あんな小さな穴にどうしてここまで心もとなささを感じたのだと不思議に思った。
あんな小さな穴で何ができただろうか?
あそこから
それしか考えようがなかった。
自分の部屋が
自分の生活が
自分の寝顔が
知らない赤の他人に見られてしまう。
その事がゆるせなかった。
まるで心の中を見られる事を
じっさい、腰の高さのあの小さな穴から、畳のはしさえ見えはしない。
でも
好きにさせてたまるものか。
恐れを──怒りにすりかえようとしていた。
それでもこれ以上に動転するなんてありえない。
あんなにしっかりと。
あんなに何重にも。
来るなら来てみなさい!
勝ち
だけど、ふと気がついた。
見られる事に動揺したんじゃなと。
犯される事を恐れたのだと。
自分が侵食される気がしたんだ。
でももう終わり。
明日からはまた自分だけの生活にもどれる。
そう思い、夜はぐっすりと眠れた。
眠れるはずだった。
胸を押さえつけられるような苦しさ。
うなされている事に気がつきだす。
息がつらくてびっしりと汗を浮かべているのが、眠りの中でわかっていた。
聞こえている音が気にいらない。
耳にしたくはない響きに狂いそうだと感じていた。
カリカリカリじゃない。
ガリガリガリ。
音が大きく強くなっていた。
怒りじゃない。
ほんものの
常夜灯の
こわばった顔で震えるように
真っ先に見たのは自分が貼り付けた
自分を守る
それがしっかりと壁にあった。
安心を目にしてるのに落ちつかない。
隣りのもの音が聞こえていた。
ガリガリガリと聞こえている。
壁を蹴りつけ脅してやろう!
タオルケットを跳ね上げ布団に立つ。
やってる事を止めさせてやる!
肩を怒らせ貼り付けたものの前に近寄った。
後ろに右脚を振り上げる。
目の前で頑丈な