拾 之 穴
文字数 1,091文字
セメントを小手で塗り重ねる。
ホームセンターの人に聞いたら、土壁よりも強いらしい。
勧められるままに速乾性セメントや、何やらを買ってきた。
穴が小さくてセメントが流し込めないとわかり、穴の口を包丁でかき回し、すり鉢の形に
その
仕上がりなんてどうでもいい。
隣との繋がりを断ちたいだけ。
塗り広げた表面に指先で触れる。
ほのかに温かく感じて驚いた。
灰色の粉に砂と水を混ぜただけで熱をもつ。
意外な組み合わせで起きた事を素直に驚けるほど心に余裕がなかった。
画鋲でとめた紙を画鋲ごと押し抜いた奴。
接着剤を流し入れ表面にアルミの板を貼り付けガムテープで押さえ込んだのを簡単に押し破った奴。
しかも寄生虫のようなキモイ生き物を開けた穴から差し込んでくる。
ちょっとおかしな奴。
いいや、かなりヤバい奴。
ストーカーとかわらない。
廊下でバッタリ出会ったらどうしよう──。
殴りつけて二階から落としてやろうか──。
殴られる瞬間ににニヤついていたらどうしよう。
変態だ。殴られて喜ぶ手合いかもしれない。
いきなり壁向こうでガリガリといいはじめた。
セメントで塗り固めた
知らずしらずに浅く息を繰り返していた。
見つめていても何も起きない。
それでも五分ぐらい見ていた。
唐突に、なんの前触れもなく音が止んでしまった。
どうしてやめたんだろう?
しばらく耳を澄ましていだけど何も聞こえない。
硬くて手に負えないんだ。
嬉しくなり、片手を振り上げたい気分だった。
あはは、止めてやった。
ザマミロ!
これで普通の暮らしにもどれる。
安心したら喉がかわいた。
今日も蒸してる。気温も高い。
気がついたら窓が開いたまま。
まあ、二階だから物騒じゃないけど。
冷蔵庫からコーラを出してキャップを
飲み口を唇に当てた瞬間だった。
顔が引きつった。
ゴリッ、ゴリッ、ゴリッ、ゴリッ──。
土壁越しに聞こえる。削り開けるというよりも、
顔を強ばらせ壁に手をあててみる。
ゴリッ、ゴリッ、ゴリッ、ゴリッ──。
音の
壁に手をついたままへたり込んだ。
まさか壁を壊す気じゃ!?
ゴリッ、ゴリッ、ゴリッ、ゴリッ──。
そんなことはないだろう。
もう、穴を
バットがいる!
バットを買いに行こうと
ゴリッ、ゴリッ、ゴリッ、ゴリッ──。
アパートを出ても音がついてきた。