肆 之 指
文字数 1,737文字
たかだか八階登るのが数百階に思えるほどたどり着くのが遅い。
エレベーター乗り場奥の右手に階段があることを思いだした。
追いつかれる!
そう思ったが最後、何の効果もないとわかっていながら、ランプの点いた八階のボタンをがしがしと押しまくった。
ドアが開いた瞬間待ち構えていたらどうしよう!?
いいや、何階で下りるか知らないはずだった。
そうじゃない! このマンション自体を知らないはずだ。それをどうやって探しだしたのだ? マンションを知っていたなら何階に住んでるか知ってるかもしれない!
ドアが開いて目の前にいたら、突っ込んで倒してその隙に自宅ドアまで駆けていこう。
そう決心した瞬間、押し上げていた感じが足裏から消え去った。
ドアが開く。まだ心の準備が! 閉じるのボタンを力一杯押し込んでいるのにドアがどんどん開いてゆく。
開いた先の踊場には誰もいなかった。
恐るおそる外を覗 き通路を見渡した。
誰もいない! しめた! 階段を駆け上がる音が聞こえそうで耳を澄ませた。
そんなことをしてる場合じゃない。早く自宅に行かなくてはと走りだした。息苦しくて自分が何をしているか他人ごとのような気がしだした。気がつけばハンドポーチを無意識に弄 り右手に自宅の鍵を握りしめていた。その瞬間、自宅のドアを通り過ぎて慌てて駆け戻りドアの鍵穴に鍵を入れようとして入らないことに焦りまくった。
力を抜いてゆっくりやると鍵があっさり入り回すなり乱暴にドアを開いて中に跳び込み閉じると力を込めてロックを掛けた。それだけでは不安でチェーンロックを掛ける。
あのワンピース女はこの階にきただろうか?
知ってるわけがない。
表札はないが何号室かはドアに表示があった。
どのドアか知るわけがない。
痛いぐらいに心臓が暴れている。外の様子を知りたくてドアスコープに右目を近づけた。
湾曲した通路の天井と床が左右でくっつきそうなほど歪 な視界に動くものはない。玄関ドアが通路よりも引っ込んでいるので左右に暗い壁が立ち上がって見える角度は思ったよりも狭かった。
来ない。来るわけがない。お願い来ないで。
見続ける狭い光景にいきなり動くものが見えて息を止めた。
あの白いワンピース女がドアの前を通り過ぎた。
やっぱり知らないのだ。知るわけがないんだ。
そう思った刹那、その女が引き返してきてドアの前に立った。そうしてゆっくりとドアスコープのこちら側が見えるとでもいうように左目をぐっと近づけてきた。
堪 えられなくて覗 き穴を手で塞ぎたくなる。でも動けばその影が相手に見えそうで息を殺して見つめ続けた。
数秒してゆっくりとワンピース女が顔を離した。
見えるもんか!
さっさと行っちまえ!
だがドアの正面で女は動こうとしない。
どうして行かないんだ!
まるでドア越しに見えているとでもいうようにじっと見つめ続けている。
いきなり首をがくがくと左右に振ると、すぅっと手首を垂らした右腕を持ち上げドアスコープの高さで止めた。
そうしていきなりこちらを指さした。
顔を指さされているようで怖気 が背中を這い上がる。
ワンピース女は指さしながら激しく首を左右に揺すり始めた。そうして口角を吊り上げると真っ赤な唇から舌を出して上下に震わせ始めた。
なんなのよ!
こいついかれてる!
正気じゃない!
「さっさといなくなれ!」
そう呟いた寸秒、女の顔が急激に近づくとドアノブをガチャガチャいわせ始めた。
我慢できなくてドアスコープから離れ土間から式台にパンプスのまま上がり廊下へ後退った。
ガチャガチャと左右に回されるノブを見つめ続けるといきなりそれが止まって静かになる。
あきらめたんだ!
さっさといなくなれ!
数呼吸の間、物音一つしなかった。
まだドア前にいるのだろうか?
気配は感じられない。
ドアスコープを覗 きたいのに足がいうこときかなかった。
土間に下りようと廊下を一歩踏みだした刹那、ドアがガンガンに叩 かれ始めた。その壊れそうな勢いに押され廊下をさらに後退る。
思わず笑いそうになる。
頑丈な鉄製のドアだ。
いくら叩 いても入ってこれるもんか! そう思い強ばらせた視線で見つめたその時だった。
大きな音が響き鉄製のドアが盛り上がった。
エレベーター乗り場奥の右手に階段があることを思いだした。
追いつかれる!
そう思ったが最後、何の効果もないとわかっていながら、ランプの点いた八階のボタンをがしがしと押しまくった。
ドアが開いた瞬間待ち構えていたらどうしよう!?
いいや、何階で下りるか知らないはずだった。
そうじゃない! このマンション自体を知らないはずだ。それをどうやって探しだしたのだ? マンションを知っていたなら何階に住んでるか知ってるかもしれない!
ドアが開いて目の前にいたら、突っ込んで倒してその隙に自宅ドアまで駆けていこう。
そう決心した瞬間、押し上げていた感じが足裏から消え去った。
ドアが開く。まだ心の準備が! 閉じるのボタンを力一杯押し込んでいるのにドアがどんどん開いてゆく。
開いた先の踊場には誰もいなかった。
恐るおそる外を
誰もいない! しめた! 階段を駆け上がる音が聞こえそうで耳を澄ませた。
そんなことをしてる場合じゃない。早く自宅に行かなくてはと走りだした。息苦しくて自分が何をしているか他人ごとのような気がしだした。気がつけばハンドポーチを無意識に
力を抜いてゆっくりやると鍵があっさり入り回すなり乱暴にドアを開いて中に跳び込み閉じると力を込めてロックを掛けた。それだけでは不安でチェーンロックを掛ける。
あのワンピース女はこの階にきただろうか?
知ってるわけがない。
表札はないが何号室かはドアに表示があった。
どのドアか知るわけがない。
痛いぐらいに心臓が暴れている。外の様子を知りたくてドアスコープに右目を近づけた。
湾曲した通路の天井と床が左右でくっつきそうなほど
来ない。来るわけがない。お願い来ないで。
見続ける狭い光景にいきなり動くものが見えて息を止めた。
あの白いワンピース女がドアの前を通り過ぎた。
やっぱり知らないのだ。知るわけがないんだ。
そう思った刹那、その女が引き返してきてドアの前に立った。そうしてゆっくりとドアスコープのこちら側が見えるとでもいうように左目をぐっと近づけてきた。
数秒してゆっくりとワンピース女が顔を離した。
見えるもんか!
さっさと行っちまえ!
だがドアの正面で女は動こうとしない。
どうして行かないんだ!
まるでドア越しに見えているとでもいうようにじっと見つめ続けている。
いきなり首をがくがくと左右に振ると、すぅっと手首を垂らした右腕を持ち上げドアスコープの高さで止めた。
そうしていきなりこちらを指さした。
顔を指さされているようで
ワンピース女は指さしながら激しく首を左右に揺すり始めた。そうして口角を吊り上げると真っ赤な唇から舌を出して上下に震わせ始めた。
なんなのよ!
こいついかれてる!
正気じゃない!
「さっさといなくなれ!」
そう呟いた寸秒、女の顔が急激に近づくとドアノブをガチャガチャいわせ始めた。
我慢できなくてドアスコープから離れ土間から式台にパンプスのまま上がり廊下へ後退った。
ガチャガチャと左右に回されるノブを見つめ続けるといきなりそれが止まって静かになる。
あきらめたんだ!
さっさといなくなれ!
数呼吸の間、物音一つしなかった。
まだドア前にいるのだろうか?
気配は感じられない。
ドアスコープを
土間に下りようと廊下を一歩踏みだした刹那、ドアがガンガンに
思わず笑いそうになる。
頑丈な鉄製のドアだ。
いくら
大きな音が響き鉄製のドアが盛り上がった。