弐 之 示唆

文字数 965文字


 山麓まで下りる必要もなかった。

 私一人に大型ヘリコプターを寄越し後部ランプ先端を山道に着けてホバリングしながら、中から七名の迷彩服三型の戦闘服姿の陸自隊員が素速く下りてくるなり辺りに展開し自動小銃を構えた。

 尋常でなく警戒している!

 そのこと事態に不安が爆増した。

 最後に後部ランプに姿見せたのは四カ月前にお世話になったマルチカム迷彩服にFASTヘルメット姿の三佐だった。彼が姿見せ乗り込むようにと大声をかけてきた。

 もしも街中なら大型ヘリコプターでなく装甲車を寄越すのだろうかと一瞬思った。

 後部ランプを上り機内に入ると山道に展開し警戒していた隊員らが小銃を構えたまま機内に後退(あとず)さってきた。

 ランプが閉じて三佐がご協力を感謝しますと告げ内壁の椅子を勧められた。

 真っ先に問いただしたのは、被検体──甲壱(こうひと)とは何だという疑問だった。

 貴女(あなた)への呪いの具現化を研究施設でそう呼称していたと三佐に説明された。

 次に問いただしたのは、この物々しい事態は何だという怒りだった。

 手足蘇生させた被検体──甲壱(こうひと)拘束(こうそく)具を引き千切り、厚さ三センチの鋼鉄の扉を壊し、自動小銃の銃弾を受けながら研究所敷地から逃げだしたからだと言われた。

 聞いてる途中から自分が陰鬱な表情になっていることを気づいていた。

 彼が言いたいことは一つだけだ。



 私の身を心配しているのではない。



 あの呪いの女を取り戻せと命令されているだけだ。



 私に(おとり)になれと言うのですねと(にら)みつけながら指摘すると三佐は申し訳ないと言って頭を下げた。

 あれ(・・)は空を飛ぶことはできない。ヘリコプターが着地するまでは当分安全なのだと思った。

 だがいずれ私の元にあらわれる。

 必ず腕振り上げ指さしながら真っ直ぐに歩いてくる。

 特急に()かればらばらになっても復活し私を追って来たのだ。そのことを説明してあったのに、拘束(こうそく)してた!? 三センチの鋼鉄の扉!? ふざけるんじゃないと腹に据えかねた。

 確かに四カ月前──あの呪いの女を狙撃して自衛隊は私を救ってくれた。

 それはあの呪いの女を閉じ込めてくれるという条件に(おとり)となることを承諾したのだ。

 不安に眼を(およ)がせると山道に下りて警戒した自衛隊員らが(みな)視線を向けており気まずそうに一斉に眼を逸らした。


 呪術の標的になっているものがそんなに珍しいのかと男らを(にら)んだ。





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