拾捌 之 地獄

文字数 950文字



 非常灯のオレンジの光りも薄暗く、暗がり以外は水蒸気が立ち込める光景を見回し、どこからあいつら《・・・・》が出てくるのだと神経を張り詰めさせた。

 人が多くいても逃げ出せない困難な状況にたった一人取り残された。

 あるのはバッテリー残量が半分近く下がったレーザー小銃とサンドイッチ数個分の爆薬だけ。

 ええ、わかってるとも。


 何とかしてここから逃げだしてやる。


 行く先もわからず設置されている大型設備横を幾つも通り抜け壁を目指した。

 船殻壁(かくへき)辿(たど)り着けばエアロックが見つかるかもしれない。かもしれないという不確かなことに賭けるしかない自分が可哀想になってくる。

 ふとプレキシガラスの内側に表示されている船外活動服の酸素残量ゲージに眼がいった。

 宇宙服には船外活動を長引かせるために呼吸から排出した二酸化炭素から触媒で酸素を作り出す。タンクと変換量を合算しその予測時間が二時間足らずだった。

 すぐにエアロックを見つけてもコヴェナント号の船外を真っ直ぐ小型艇まで歩いたら(ほとん)ど余裕がない。

 プレキシガラスの内側で悪態つきなが早足でキャットウォークを駆けた。

 船内の空気を洗浄交換し温度を下げる大型チラーの(わき)を抜けていていきなり頭上から飛び下りてきた何かに振り回されキャットウォークの手すりに顔前のプレキシガラスを(したた)かに打ちつけ(あご)の前にある表示ユニットに唇を強打した。

 人が飛びかかってくるはずがない。



 顔を横に振り向け流し目で後ろを見つめた。その視野の隅に凶暴そうな顔をした生き物が粘液を滴らせ尖った歯の並ぶ口をゆっくりと開きながら立ち上がろうとしていた。



 咄嗟(とっさ)にパルス・レーザーの銃口を(わき)の間から後ろへ向け(めくら)滅法に射撃した。

 その数発が命中したのか背後で甲高い咆哮(ほうこう)が聞こえ振り向いてのた打ちまわるそいつ(・・・)にさらに狙いつけ追い討ちをかけ連射で発砲した。

 傷口から(ほとばし)る強酸性の体液を避け退(しりぞ)いて(きびす)返し先を急いだ。

 巣の中枢から離れているのか、いたるところに垂れ下がる樹脂の量が減っていた。

 いつの間にかキャットウォークを駆ける音が幾重にも重なり乱れていることに気づいて走りながら半身振り向いてキャットウォーク先の暗がりを眼にして顔を引き()らせ青ざめた。



 十数匹のそいつら(・・・・)が四つ足で長い尖った尻尾を振り上げ駆けてきていた。





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