前触れ 之 章 壱 之 地獄

文字数 1,095文字

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 ─ Dedicated to Sir Ridley Scott's works ─
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 2105年、オリエガー6のLVー426に向かう日本国籍の移民船オオキミの操縦室のモニタの一つの画面が変わり1パーセク(:3.26光年)に人工物の反応が映し出され、AIアマテラスVer11は操縦クルー十四名の覚醒サブルーチンを走らせた。

 おおよそ一時間後、冷凍睡眠ユニットから解放された船長以下操縦士らは茫洋とした面もちで操縦室に集まった。

 誰も六十年余りを寝た後だけに食事を望むものもなく、すぐに巨体の移民船オオキミの減速と方位修正作業に入った。

 一等宇宙航海士の私もひどい胸焼けで食事より気が紛れる航行作業の方が良かった。

 航海通信士のクルーがしきりにその人工物へ向け呼びかけを続けていた最中、AIアマテラスVer11が人工物の船籍及び所属先を割り出した。

 ウェイランド・ユタニ株式会社のコロニー植民船コヴェナント号。二千人余りが乗り込んでいた。

 応答はなく、それでもコヴェナント号の動力が燃焼中であり航行を継続しているので接触を図る必要があった。

 日本の移民船オオキミはコヴェナント号よりも二十七年後に建造された遥かに上回る動力を誇るアジア最高のコロニー型移民船だった。

 艦首の巨大な核パルス・リフレクタを盛大に燃え上がらせ光速の1.9パーセントで航行していた巨船はゆっくりと減速し始めた。

 応答がないのはおかしい。

 コヴェナント号にはマザーというAIやアンドロイドの乗員が24時間7日全日で船を監視しているはずだ。軍事船ではない一般研究移民船なので呼びかけに応答しない理由がわからない。

 それでも船長は宇宙航行法にのっとり近距離につけて安否の確認を取る必要があると操縦士らに説明した。

 広大な宇宙では人の存在は貴重で安否確認は重要なのだと理屈ではわかる。だが無駄だと思った。この減速と方向修正で目的地のLVー426へ向かうのが十年以上遅れるのだ。忌々(いまいま)しい服務がさらに何十年も伸びる。

 冷凍睡眠で寝ている間も給料が振り込まれるとしても無駄だと思った。

 遅いコヴェナント号の速度に合わせるのに半年近くかかる。

 その間、退屈な航行ルーチンをこなさなければならない。

 コンソールを前にして愚痴をこぼすと、AIのアマテラスVer11が釘をさした。


 コヴェナント号の乗員が困っていたらどうするのです?


 よしてよ。何の繋がりもない夢見る連中だ。困っていても冷凍睡眠じゃ伝染病にも感染しない。

 そう思いながら1パーセク先の数キロの長さの船に7キロの近距離で併走できるように海図にベクトルを指定した。





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