参 之 地獄

文字数 984文字



 コヴェナントの通路へ出るドアが開くと見えた通路に驚いた。

 床や壁が苔だらけでヘルメットのシールドに水滴がつき始めた。

 大型宇宙船はフルコンディショナーのはずだ。でないと長期メンテを受けられない膨大な電子機器や機械が不調に(おちい)る。

 通路を含めた居住区は温度・湿度が管理されているはずなのに湿度が高すぎた。宇宙服の外温計を表示させると三十度を越えている。

 気温と湿度が高い原因を探し取り除かねばならないと船長に報告する。

 船内AIマザーに制御は委ねられているからそこを調べてみろと指示された。

 通路のコンソールから船内AIに呼びかけるが応答がなかったので他の操縦士と共に操縦室へ向かうことにした。

 通路の所々で緊急扉が半下りになっている。

 そのうち通路を塞いでいる扉に出くわした。ただ下りているだけでなく表面のパネルが殴りつけられたように幾つも陥没している。

 船長はヘルメットのプレキシガラスの内側で顔をしかめ(そば)のコンソールから船内図を呼び出し迂回路を探した。

 幸いにそう回り込まなくとも操縦室に辿(たど)り着けそうだとわかり、別の扉を開き五人で回り道を歩き始める。

 所々の壁が破損している。ドッキングベイから遠ざかるにつれ傷んだ箇所が眼についた。

 何をしたのだろうか。

 まるで船内で争い合ったような有り様に困惑した。

 そのうち他の操縦士の一人が奇妙なものを見つけ出した。

 壁に開いた損傷の大穴が大型空調ダクトに貫通していて、壁の裂け目に水飴のような黄色い粘着性の液体がいくつも垂れ下がっている。

 それに裂け目の合金パネルの縁が鋭利でなく溶解したような湾曲した有り様に眉根をしかめた。

 筆記具で垂れ下がっている液体に触れるとキャップから盛大な蒸気が上がり先端が()(くず)れた。

 強烈な酸ですと(みな)に言うと船長が離れるようにと指示した。

 その裂け目から後退(あとず)さり眼を凝らした。

 裂け目が酸だけで開いたのなら中の床にも大穴が開いているはずなのに(わず)かに小さい穴が幾つかあるだけだった。

 裂け目を離れ迂回路を行くとまた通路を緊急扉が閉じていた。船内図を調べ他に近い迂回路がないとわかると船長の指示で扉をレーザーで焼き切ることになった。

 小さなドアほどに焼き切られてゆく合金パネルが切り落とされ前に倒れると見えたものに(みな)が困惑した。



 緊急扉の内側に色んなものが積み上げてありバリケードになっていた。





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