中庭 三 之 苅込

文字数 1,120文字



 女の子が描いていた模様。

 ()まわしいものを見つめるように後退(あとず)さり階段に向かった。

 偶然じゃない。

 簡単に描ける模様じゃなかった。

 階段から落ちないように手すりを握りしめて登りながらばくばくする心臓を落ち着かせようとした。

 ストーカーとかの問題ではない。

 あの女より先に退勤したのにアパートに先回りできるはずがなかった────それなのに。

 外廊下から駐車場を見下ろす。

 女の子がまだチョークで遊んでいる。

 あの女が、階下の幼子に面識があるわけもない。


 恨みを買うような事をしたの?


 神主の娘の問いかけが蘇った。

 もしも本当に──ほんとうにあの女がしてる事なら、事故や事件で退職した人達のそれらもあの女がやってるのかもしれない。

 自分にも事故や事件が降りかかると思った瞬間、また寒気が()い上がってきて自分を抱きしめ身震いした。

 ぎこちなく鍵を差し込み手を止め思った。


 何をしたのか見当がつかないから、(つくろ)う事もできない。


 一言、話すどころか、目すら合わせた事のない人から(うら)まれてる。

 唯一(ゆいいつ)、関わったのはあの液晶画面に映った魔法陣を見たことだけ。

 あんな模様一つで。

 違うちがう! あの女が何かしてるなんて思い込みだわ。


────じゃあ、誰が!?


 呪いなんてある訳ない。

 呪いと見せかけてる。

 ストーカーからされてることに神経質になるあまり見逃してるのかもしれない。

 あの女じゃなく誰か──そう同僚の男の人。

 ロッカーの扉を開けられたら、財布の免許から住所がわかるし、鍵も持ち出しできてスペアを作れる。

 だけど鍵は換え、新しいものは仕事中に身につけてるから二度とこの部屋に入る事なんてありえない。


 呪いに見せかけた、ただのストーカー行為だわ。


 ふと留守中に玄関先に来てるかもと思った。

 それを調べる何か──証拠を残せる何かが必要だと思った。でもドアにテレビカメラみたいな大きいものを付けたら近づかないだろう。

 スマホで調べだす。

 すぐにドアの(のぞ)き穴に取り付けるカメラが見つかった。

 でも一日中撮ったらぜんぶ見るのが大変だと思った。調べると撮影風景で動くものがある時だけ撮影するパソコンソフトがあるのを見つけだした。

 値段を調べるといずれも高くない。

 いいコスメそろえるのと大して違わない。

 すぐに通販で購入手続きをした。明日の夕方までに届く。


 これで証拠をつかみやり返せる。


 玄関へ歩いてゆき、そっと、少しだけ扉を開いて外を(のぞ)いた。

 アパート前の裏道を(なが)めた。

 左右の角にある家の塀と垣根に誰か身を退()いたような気がして胸騒ぎに息苦しくなる。

 自分がストーカー被害にあうとは思いもしなかった。

 呪いに思わせるなんて────。



 怒りにまかせ扉を閉めた。





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