壱 之 詛言(そげん)

文字数 1,014文字



 生業(なりわい)で恐怖小説を書いている。

 それほど人気あるわけではないが食っていくぶんには困っていない。

 この仕事をしていると読者からファンレターならぬ相談の手紙を時々受けとる。

 部屋に地縛霊がいるのではないか。会社の知人に呪いを掛けられているのだろうか。仕事が(ことごと)頓挫(とんざ)するのは呪いのせいだろうか。級友が豹変したが憑きものがそうしたのか────。

 手紙のどれもがはっきりと否定して欲しいのか、証拠立てて肯定して欲しいのか二分される。

 だがほんの(わず)かだがたまに苦慮するものがある。

 まるで恨みでもあるかの(ごと)く意味不明の文章を受けとることがあった。

 今日、担当の編集者から渡された手紙や葉書の(たば)にそれが入っていた。

 担当が帰り編集部に届いた通信を確かめていて、一通だけ利き腕じゃない手で書いたような宛先を目にして興味惹かれた。

 まず封筒を裏返し発送人の名前を確かめるのだが、郵便番号や住所の記載なく、五文字の象形文字のような何語とも判別つかない文字が縦に書かれていて、嫌がらせの(たぐい)かと封を切る前に少し警戒した。

 レターオープナーで封を切る。

 適当な折り畳み方の四つ折りの便箋(びんせん)が一枚入っていた。

 広げてみて困惑した。

 文字ではなく中央に大きく複雑な模様が一筆書きで描かれている。

 明らかに文字の(たぐい)ではない。

 上下左右に回転させてみるが文字として一部分も読みとることができない。まるで毛糸を乱雑に垂らし重ねたような図柄だ。

 規則正しい部分がまったくなく魔法陣や護符にも思えない。

 おかしな(たぐい)の手紙だと鼻筋に(しわ)を刻んだ。

 この手合いは燃やすことにしてる。

 そうすることで何か残ることを避けているのだが、何となく模様が気にかかり手紙を元のように折り畳み封筒に戻し書棚の本の手前に載せ置いた。

 変にインパクトがあったのか、その後に読んだファンレターには上の空だった。

 書きかけの連載の続きを書き始め筆がなかなか進まず、先の変な模様の手紙をもう一度手にとりパソコンのキーボード上に広げスマホで撮影した。

 そうしてブラウザで検索サイトを表示させ写した画像をアップロードし検索してみる。

 何かヒットするかと思ったが結果無しだった。

 当たり前か────。

 なら部分ではどうかと一部分を適当に範囲指定し検索してみる。結果無しが続いたが(あきら)めかけた九回目に該当一覧が表示された。



 名も聞いたことのない南米アマゾンの部族の文字と瓜二つだった────それが始まりだった。





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