弐 之 生きもの

文字数 1,135文字


 ヘリコプターが使い物にならないとわかり離れ屋外を探し歩いていると雪上車の半分の高さに盛られた雪の小山を見つけた。気になったのはそれが向かい合わせるように並べて盛られていたからだった。

 その二つの雪山の間に少しだけ(のぞ)いているのが黒こげになった衣服の一部だった。

 服を燃やすのにわざわざこんなものを盛るかしらと相方の隊員に説明すると彼が間に入り足で積もった雪を払い始めた。

 それを見ながら防寒着のポケットから煙草とジッポーを取り出し一本咥(くわ)え火をつけた。

 足が何か固いものに当たり彼が動き止め怪訝(けげん)な顔でこちらを見上げ、私が煙草咥(くわ)えたまま(うなづ)くと相方が(ひざ)を折り防寒手袋をした両手で足元の雪を払いのけ始めた。

 すぐにそれが見つかった。

 焼け残った防寒ズボンと靴を履いた人の片脚。

 大変だと顔を強ばらせた。

 彼にどうするか問われ、まず他の隊員に報せようと説明しとりあえずそこから出てと指示した。ことはそれからだ。

 すぐに(きびす)返し隊長へ報せるために燃え残りの屋内に走った。

 まさか南極で殺人事件に合うとは思わなかった。

 慰問隊に医者はおらず残りの遺体が出てくると検死を頼まれるかもしれない。微生物学者のなのにと不安になる。

 報告を聞いた隊長は他の三人の隊員らを連れその遺体を見にきた。

 二人が積まれた雪の間に入り積もった雪をはねのけ燃え残った胴体と残りの片脚、それに腕に繋がった何かを見つけた。

 それらを外の雪面に並べ(みな)で見下ろし意見を出し合った。

 埋葬しようとしたのじゃないかと一人が述べた。

 埋葬が一般的な米国で埋めるのでなく、なぜ人を焼こうとしたのかが不可思議だったがもっと困惑くしたのは()けかかったように見える腕先だった。

 手の構造とはまるで異なる作りの大きな異形のそれがなぜ人の腕に繋がっているのか。

 これは何だと隊長から意見を求められた。

 ボールペンの先で(ひじ)からその異形の手へと皮膚をつついてゆく。

 皮下組織は凍結し皮膚に弾力はない。それが手首から先の異形の何かに同じように見られる。

 繋がり部分もわからず一体であり、作りものや被せものに見えない。

 だが燃え残りの着衣から見える(ひじ)の作りは明らかに人のものに思える。

 米国人らはまるでこの作りに怖れて焼こうとしたのか。

 その人の手と極端に乖離(かいり)したものを見ていて元は普通の手ではなかったのかと思った。

 ふと感染が気にかかり、触れた全員に素手で触らなかったか問いただす。

 (みな)が否定し隊長がなぜだと(たず)ねた。

 感染する病理体の可能性だと説明すると触れた隊員らが防寒手袋を遺体があった雪山の間に投げ捨てた。

 見つけた遺体はそれだけではなかった。

 建物の内外に焼かれたものを幾つか見つけた。



 そのどれもが人の一部を残し異様な形をしていた。





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