紅 之 詛言

文字数 1,299文字



 異様な大潮が続くだけでなく、ニュースに各地の活火山が噴火を始めたことや地震のレポートが繰り返させる。

 日本だけでなく世界中に天変地異が起きていた。

 呪いかけたアマゾン少数民族のシャーマンは自分らも破滅するのをなんとも思っていないのか。

 ニュース番組だけでなく特番で識者が太陽系にブラックホールが近づいているだの勝手なことを説明している。

 ブラックホールじゃない。

 赤色矮星(せきしょくわいせい)なのだ!

 ニュース、特番がテレビ放送に(あふ)れそれに混じって政府公報が流され出した。

 危険を避けるため不要不急の外出を避け、緊急避難指示には迅速に────そうじゃない! 逃げ場所なんてあるものか!

 この星が滅びるのだ。

 太陽ほどもある恒星がぶつかってくるのだ。

 呆然と見続けたテレビ番組に視線そらしベッドから脚を下ろしたのは夕方になってからだった。

 カーテンを少し開き、硝子(ガラス)越しにテラスの床を見ると夕焼けの色に染まっていた。

 スマホの呼び出し音が鳴り電話に出ると、知らない名前の男からだった。身分を有名大学の天体物理学教授だという。

 赤い星のことで数日前に出版社から問い合わせがあったことを告げられ編集担当の知人かと思い当たった。

 赤い星はまだ未確認だが詳しい話を聞かせて欲しいと頼まれた。

 その星は赤色矮星で、アマゾンの少数民族のシャーマンが引き寄せ、呪いだから私にか見えないのだと言うと相手が絶句した。

 テラス窓の方からサイレンが聞こえスマホを耳に当てたまま外を覗き見た。

 パトカーに先導されて黒い高級車が数台マンションの前に止まり同じ様なスーツ姿の男らが車から下りてテラス窓の方を見上げてマンションに警官らと次々に入り込んでくる。

 お前らになにができるものかと空を見上げた。

 上階のテラスの張り出しから見える空を街の地平まで触れそうなほど赤黒いコロナと紅炎が激しく揺らめいている。

 この世界をすべてあの(ほのお)が舐めつくすのだ。

 人どころか生き物一つ、生存を赦さない。


 誰の恨みがそうしたのだ────!?





 顔に複雑な模様描いた呪術師は長いながい呪文詠唱(えいしょう)を終え、手に握りしめていた外の文明の一つを炎上げる薪に放り込んだ。

 白人がもたらしたのは自然の破壊と強制労働と文明という頽廃(たいはい)した生活だった。

 部族九十二名の内、部落に残っているのは七名だった。

 これをもたらした外の人の部族もろともこの汚れた大地を浄化させるしかなかった。


 燃え捲れるペーパーバックの表紙にアルファベットで表示された日本人の名前とホラー小説のタイトルが黒く灰になり阿鼻叫喚のように火の粉舞い上げた。





   ー了ー





 最後までお読みくださりありがとうございました。

 バタフライ効果──広い大地の先の誰の恨みをうけるか、この幸せに暮らす国の人々は想像もしません。それはあなたが口にするその食べ物、あなたが身に(まと)う布一枚に起因するやもしれない因果関係。その繋がりを辿(たど)ろうとも(とばり)の先に消えゆく糸がどこの誰に結びついているのか誰にも断言できません。

 引き続き(とばり)めくりをお楽しみくださりませ。
 めくった先に(ほの)かに見えるのは、『()は地獄から─芽生え─』──心よりお(ひる)み下さいませ。





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