袋小路 之 刺客

文字数 1,012文字

 引き()られ片手で調理台の足をつかんだが、女の力に抗いきれず、引っ張られ廊下へと連れ出された。

 つかまれていない手を逆手にしてホルスターから拳銃を引き抜いた。

 引き()られながら(からだ)(ひね)り銃を振り上げ女の開けた黒ドレスの背に二発撃ち込んだ。

 だがつかむ指の強さも引き()る勢いも弱まわらず後頭部を(ねら)おうとした。引き()られながら()うには高すぎ女の黒いハイヒール履いた片足の足首を(ねら)い発砲した。

 一度女はがくりと傾き歩くのを止めた。

 今だとばかりに女のつかむ腕の手首を(ねら)い一発撃ち込んだ。

 だが締め上げる指の力はまるで引き千切らんというばかりに強くあまりの痛みに女の腕に二発、三発と続けざまに撃ち込んだ。

 手首の激痛に気が遠くなりそうだった。

 気づいたらまた引き()られ始めていた。

 くそうと(わめ)いて女の背をさらに数発撃った。

 女はまったく意に介さず結構な勢いで引き()ってゆく。

 燃え上がる炎がすぐ目の前に近づいていた。

 女を止めるには頭を撃つしかない。

 だが引き()られがくりがくり揺さぶられ(ねら)い上げるのは不可能に近かった。

 どうするつもりだ!?

 どこへという思いよりもこのまま絨毯(じゅうたん)の上を引き()られると炎の中に入ることになる。

 だが自分より女の方が炎に踏み込まなければ引き()ってゆけないのだ。

 その黒ドレスの女は平気で炎に近寄り、とうとう(あぶ)られ始めた。

 痛みと熱さに狂ったように暴れ女から逃れようとした。

 頭髪が縮れ、顔が火脹(ひぶく)れし叫び声を上げ始めた。

 服が燃え上がり炎の絨毯(じゅうたん)上を引き()られ吸い込む熱に肺が焼かれ何もかもわからなくなると意識が飛んでしまった。

 燃え上がる絨毯(じゅうたん)が、いつの間にかおうとつのある瓦礫(がれき)になり周囲は燃え上がる熔岩になって赤黒く照らされる暗い岩場だらけの風景が広がっていた。



 燃え盛る激痛に我に返った殺し屋はそこがこの世のものでないことに絶望し女の背を見上げた。



 黒髪の左右に巻き角があり尖った尻尾が熔岩の照り返しに赤黒く揺れ動いて見えた。





   ー了ー





 最後までお読みくださりありがとうございました。

 他人の死をつかさどる生業(なりわい)が招き寄せた絶望。それが何だったのかを知る唯一のものは誰にも告げることができず、異界に呑み込まれてゆくしかありません。その(とばり)の先にある地がどこなのか誰にも断言できません。

 引き続き(とばり)めくりをお楽しみくださりませ。
 めくった先に(ほの)かに見えるのは、『複製 ─ふくせい─』──心よりお(ひる)み下さいませ。





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