拾肆 之 地獄

文字数 1,009文字



 定めには負けじと────命を拾ったとヘルメットの球形プレキシガラスの中で荒い息を三人でつきながら、逃げてきた先を振り向いて見つめた。

 追っては来なかった。

 怪物を倒すどころか(またた)く間にたった一匹の怪物に半数が()られた。

 ウォルターがなぜ武器を奪うようなことをしたのだと一人の同僚が声を荒げた。

 そんなことよりも自分たちがいるこの場所はあいつら(・・・・)住処(すみか)なのだと注意を(うなが)した。

 まず手持ちの武器を確認した。

 持ってきたはパルス・レーザー小銃一挺、少量の爆薬と点火キットが四組、動体検知器が一つ。


 これだけでは動力室に捕らわれている人を助けるどころか、数キロ先の小型艇(こがたてい)にすら辿(たど)り着けない!


 ヘルメットのプレキシガラス越しに三人が悲痛な面もちを浮かべ顔を見合わせた。

 どうするのだと二人の男から問われ、一瞬意味を理解しかねた。

 船長が死んだのだから指揮順位は一等航海士の自分にあるのだと思いだした。

 このままあいつら(・・・・)巣窟(そうくつ)にいてもいずれ周囲を取り囲まれる。囲まれなくてもあれ(・・)に一匹出会うだけで終わりが見えていた。だからバリケードの方へ戻ることもできない。

 あれ(・・)はバリケードの後方からどうやって来たのだと同僚の男らに問うた。

 一人が天井の一角のパネルがなかったのを思いだした。そうだバリケードを積み上げた近くにパネルが落ちていた。

 やつら(・・・)は空調ダクトを通り道にしている!

 巨大な船内の空調システムのチラーが動力室にあってもおかしくない。動力部からダクトに出入りしてるのだと意見がまとまった。

 ならダクト張り巡らされてる船内のどこでも危険だということになる。

 船尾区画まで来れたのは運が良かったのだ。いつどこであいつら(・・・・)に遭遇してもおかしくなかった。

 よけいに小型艇(こがたてい)まで戻るのが難しく感じた。

 ナトリウム非常灯のオレンジ色に照らし出される二人の同僚の顔が不気味に見えて、決断を下すのを長引かせるわけにはゆかないと思った。


 ふと、船内が駄目なら船外を行けばいいと気づいた。


 船外活動服のブーツ底は自動式の電磁石になっていて船殻(せんかく)表面を歩いて行ける。セーフティ・ハーネスのない装備で船外へ出るのはとても危険だが、あいつら(・・・・)がうろつき廻る船内を数時間も歩くなどもっての他だった。

 だが問題が二つあった。

 連れ(さら)われている移民達をどうするか。

 機関部のエアロックまでどうやって行くかだった。



 ここはサッカーグラウンドの七十倍以上も広さがあるのだ。





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