陸 之 示唆

文字数 994文字


 天井の丸い穴から外へ上半身を出している隊員が時計と逆回りしながら腰のホルスターから拳銃を引き抜き発砲し始めると鋼鉄の壁を(たた)く音が後ろへ回り込んで後方のスロープになる扉が殴られ続いて右側の壁が激しく振動し大きく内側に盛り上がった。

 見えてないはずなのに私の方へ回り込んでくることに次々に盛り上がる内壁が迫ってきて顔を強ばらせた。

 車体が大きく傾きディーゼル・エンジンが咆哮(ほうこう)を上げた次の瞬間、バウンドし加速しだしよろめいて隊員の一人に激しくぶつかった。

 振り切ったのだと安堵(あんど)した寸秒、ぶつかり抱き止めてくれた隊員が鋭い視線を他の隊員へ向けていることに気づいた。

 彼らは冷静だ。

 状況を正確に推し量ろうとしている。

 凄い勢いで走りだした装甲車があの呪いの女を振り切ったと考えていないのか!?

 その時、運転してる隊員が市道に出たと(わず)かに車内へ振り向き告げた。

 市道に出たからと何だというのだと憤然(ふんぜん)となった。

 あの腰までの長髪で顔を隠した白いワンピースの女は、お構いなしだと走りすぎる後方を自分の眼で確かめたくなった。

 いきなりエンジン音が下がり車体が止まったので運転してる隊員へと顔を向けた。

 赤信号だと彼が告げた。

 追いつかれる。

 あれ(・・)は走っては来ないが、わき目もふらずどんどんと追い詰めてくる。

 思わず早くだしてと言ってしまった。

 だめです。この車に普通乗用車がぶつかれば相手の車両が大破すると警告された。

 天井の開口部から外に半身出している隊員が後ろへ振り向いていて早く出せと怒鳴った。

 急かす理由は幾つかあろうが、怒鳴る意味は一つしかない。


 追いついて来てるのだ!


 けっこう速度上げ走っていたはずだ。距離をおいたと思ったのは間違いなのと目まぐるしく理由を考えて、ショートカットしてきたのだと気がついた。

 正門の方へ抜けず有刺鉄線(ゆうしてっせん)を乗り越え住宅街を突き抜け最短距離を歩いて来たのんだ!

 あぁ油断していた。

 習志野演習場の出入り口は幾つあるのと後部座席にいる自衛隊員の一人に聞いた。

 三カ所だという。

 正門が一番近いのと問いただした。

 正門が近く、小さな東門と南にも普段使われていないゲートがあると教えられた。


 その南門へ向かってと言い、隊員が唖然としてるので怒鳴った。


 南門へ! そうすればあれ(・・)が演習場を突っ切る!


 そう怒鳴った刹那(せつな)、車外で急ブレーキの音が聞こえ鈍いぶつかる音が聞こえた。





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