終焉 之 示唆

文字数 1,143文字


 その送電塔から直接引き込まれた高電圧の電気が、遮断されてなお異臭と煙りは収まらず立ち上り続けた。

 三佐に伴われて穴の(ふち)へ行き底を覗き込んだ。

 すり鉢状の穴には電線ネットが広がっている以外に異変はない。



 だが中央に(うごめ)くものがいた。



 白のワンピースが黒焦げになり皮膚が暗い灰色と化した呪いの女がまだもがいていた。



 六万ボルトでも死なぬ(・・・)か────そう三佐が吐き捨てた。

 いいや、そもそも命がないのだ。それを殺そうというのが間違っていると思った。

 あれ(・・)は完全に損耗すると復活するまでに半年ほどかかります。完全に破壊されると次にいつやってくるのかわからず後手に回りますと三佐に告げた。

 そのことも考慮してありますと特殊部隊の指揮官に言われた。

 どうするの!?

 ここの穴底で電流を流し続けるわけにもゆかないだろうと困惑しながら送電ネットの下で(うごめ)く呪いを(にら)みつけた。





 翌日、海上自衛隊護衛艦隊第十一護衛隊護衛艦(DD)あさぎりに乗艦し駿河湾に来ていた。

 常時四人の武装した陸上自衛隊陸上総隊特殊作戦群第一中隊の隊員らが見張るヘリコプター甲板(デッキ)の中央に置かれた鋼鉄の箱を甲板(デッキ)の端から静かに見つめた。

 白いワンピースの女は高圧電気を流されてからというもの大した身動きができず(からだ)にぴったりと合わせた中世の拷問器具であるアイアンメイデンのような頑丈な(ひつぎ)に入れられすでに十六時間が過ぎていた。

 鋼鉄でしかも手足の動かす寸分の余裕ない鋼鉄の箱だからといって自衛隊は楽観視していなかった。

 徹頭徹尾(てっとうていび)、逃げ出せない状況を作る腹積もりなのだと知り、取り戻しつつある安心と、呪いとして老婆に(つか)わされた長髪の女に(あわ)れみを感じた。

 まもなくこいつ(・・・)は二千五百メートルの海底に落とされるのだ。

 鋼鉄の棺桶(かんおけ)には幾つもの注水スリットが設けられており二百五十一気圧の深海水が呪いの女を締め上げる。


 女は死ぬこともできず、動くこともできずこの先私が寿命を迎えるずっと先まで海底に横たわるのだ。


 私なら数ヶ月で発狂するだろう。

 艦尾の水流がおさまり速度が落ちてゆく。

 投棄地点に来たのだ。

 拘束棺桶(こうそくかんおけ)がクレーンで吊り上げられ、海面へ旋回してゆくのを眼で追って、封印されしワンピースの女へ腕を振り上げ指さして言葉を吐き捨てた。



 戻ってくるな!





   ー了ー





 最後までお読みくださりありがとうございました。

 呪いが一方的であるという点ではストーカーも同じでしょう。人は誰でも悪意があるなしに関わらず押しつけがましい行為を嫌います。その泥沼にはまったような状況を抜け出られるかそうでないかは深い帷(とばり)に呑み込まれてしまいます。
 引き続き(とばり)めくりをお楽しみくださりませ。
 めくった先に(ほの)かに見えるのは、『奈落迦 ─ならか─』──心よりお(ひる)み下さいませ。





ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み