肆 之 示唆

文字数 968文字


 千葉県の習志野駐屯地に着いた時には陽はとうに暮れて後部ランプを下りるとそこはグラウンドのような土の場所だった。

 真っ先に気づいたのは、投光器に照らされたヘリコプターが下りた周囲を武装した五十名ほどの陸自隊員らが警戒していることだった。

 すぐ(そば)には陸自の角張った(いか)ついSUVがあって助手席の後ろドアを開かれ三佐に乗るように言われた。

 これだけの警戒を眼にしながら安心感がないのは、あの白いワンピース女の尋常でない体力を知っているからだった。

 ステンレスの物干し竿を糸くずでも丸めるように折り曲げてしまう女。

 夜通し警戒しますので今夜は女子用宿舎で安心してお休みくださいと三佐に言われた。

 建物に案内された時にはすでに周囲に自動小銃で武装した隊員らが歩哨(ほしょう)に立っていた。たぶん日本で一番安全な宿舎に泊まるのだ。


 だが命狙ってくるのも日本一ヤバい奴だった。


 三佐に夜中にスマホに電話することになってもいいのかとドア閉じる前に(たず)ねた。

 いつでも数分で駆けつけると確約してくれた。

 部屋に一人になり固そうなベッド(そば)背負子(しょいこ)を立てかけ、登山着を脱ぎかかり止めてしまった。夜半に襲われたら着る()もなく逃げ出さなくてはならない。

 あのワンピース女は二十四時間を一週間いつでも襲ってくる。

 部屋を見回し壁が頑丈そうなのに安心し、壊して近づくなら窓かドアだと思った。

 三センチの鋼鉄扉を壊したと言っていた。

 マンションの鉄製ドアよりも頑丈なのだろう。

 この部屋の窓やドアは紙同然だと思いながらベッドに腰かけた。
 
 一日中、神経を張りつめたせいかすぐに(まぶた)が重くなり横になって寝入ってしまった。

 夢の中であいつに追い詰められ喉に伸ばされた指が絡みついてきて声にならない叫びを振り絞って突然、眼を覚ました。

 ひどい寝汗をかいていた。

 悪夢のせいで目覚めたのだと思っていたが違っていた。


 扉が激しくノックされていた。


 近づくのも恐ろしく大きな声で誰何(すいか)した。

 中隊の三等陸尉の誰それだとドア越しに大声で返事があり急いで出てくるように言われた。

 (あわ)てて服を着ようとあたふたして登山着を着たままで寝入っていたことに気がついて扉まで行き鍵を開けると廊下に三人の隊員らが廊下先の曲がり角に警戒し自動小銃を向けていた。


 説明受けずとも事態が呑み込めた。



 あれ(・・)がやって来たのだ!





ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み