参 之 示唆

文字数 825文字

 研究所はどこにあるのですと三佐に問うと自分にはそれを開示する権限がないとやんわり断られた。

 じゃあこのヘリコプターはどこに向かっているのですと重ね問うと、千葉にある習志野駐屯地が目的地だと教えられた。

 習志野って大都市東京のすぐ近隣だと眉根をしかめた。

 研究施設もそこにあるんですねと言うと三佐が小さく(かぶり)振った。

 そこをキルボックスにするのですと丁寧に言う。

 キルボックス? 箱か何か? と思いそれを(たず)ねた。

 殲滅(せんめつ)を目的とした罠の場所ですと三佐が言う。


 殲滅(せんめつ)!? 今、殺すと言ったのかと眼を(しばた)いた。そうだ英語のKILL(キル)だと()に落ちた。


 なら自衛隊はあの呪いの女を完璧に倒す算段でいることになるのかと三佐に(たず)ねた。

 確保でなく、抹殺が妥当だと幕僚長が判断したのだという。習志野駐屯地にそのための緊急準備が進められていると彼が教えてくれた。

 心強いと(つぶや)き皮肉った。

 小銃の銃弾を浴びせながら取り逃がしたのだ。なら爆弾でも使う腹なのかと冷ややかに思う。

 都心のど真ん中でそんなことをしてみなさい。現政権がひっくり返ると苦笑いを浮かべ、三佐から何が嘲笑に値するのかと問われ笑い飛ばすしか救いがないと答えた。

 心配いりません。第一中隊で守り抜きますと言い切られ、全員死ぬわと塞ぎ込んだ。



 腹立ちに、いきなり席の横に置いていた背負子(しょいこ)をつかみ上げ床に叩きつけた。



 大きな音に貨物室機内の全員の視線が降り注いだ。

 いきなりこのヘリコプターが落ち始める。その時にあなた方は何を思う!? と押し殺した声で(たず)ねた。

 最後までパイロットを信じます。そう三佐が答えた。

 軍人とはこういうものなのかと、半眼で男らを見据えた。

 武器と体力と指令を信じるだけの男らをもう一度信じろというのか!

 (うつむ)いて顔を両手のひらで被い涙浮かべた。

 今ではあの夜ぶつかり合い倒してしまった老婆が呪いの(ぬし)だと確信していた。



 いざという時には被検体──甲壱(こうひと)を爆破できますか────と陸自の男に問うた。





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