拾玖 之 地獄

文字数 1,010文字



 猟犬のように追い立ててくるそいつら(・・・・)はパルス・レーザーで何とかできる数ではなかった。

 後先のことも考えず駆けながら爆薬一式を船外活動服のポーチから取り出し時限信管を差し込んで適当にタイマーを押して後ろに放り投げた。


 (ほとん)ど着地と同時に起爆し爆風でつんのめり、あいつら(・・・・)の叫び声がプレキシガラス越しに聞こえていた。


 それでも全部倒せたわけではないと懸命に脚を繰り出し続けた。

 息が切れかかったその時、目前に樹脂に被われた殻壁(かくへき)らしいものが見えてきた。

 見渡すと補強構造材が天井まで伸びている。

 外殻(がいかく)に間違いない!

 どこかに機材搬入口があるはずだと壁沿いに走り出しナトリウム非常灯のオレンジ色の灯りに薄明るく照らされた先を見つめる。

 二百メートルも走らずにその大型エアロックの扉を見つけ、(そば)に必ず人員用の小型扉があるはずだと必死で探すとついにその小型エアロックの扉を見つけ(あわ)てて立ち止まった。



 よりによって扉の前に三匹もあいつら(・・・・)がいる!



 もうパルス・レーザー小銃しか頼れなかった。

 あんな壁の(そば)にいるあいつら(・・・・)を撃ったら強酸で外壁に穴が開いてしまう。

 どのみち穴ができるならと壁に向けてレーザーを乱射した。

 その光と衝撃音にそいつら(・・・・)が気づき顔をこちらに振り向けた。


 刹那(せつな)、二匹が壁へと飛ばされ無数に開いた穴から強速(ごうそく)で吸い出される空気に巻き込まれ壁に張りついた。


 だがもう一匹は寸前で逃れ恐ろしい加速でこちらへ駆け始めた。

 走りながらなら命中しないが、立ち止まりその上下左右に激しく揺れるそれ(・・)に狙い定めた。

 セレクタをパルスから連続に切り替え、引き金を絞り込んでそいつ(・・・)(からだ)を斜めに銃口を走らせた。

 真っ二つに裂けたそれ(・・)は多量の体液を撒き散らし床や壁に幾つもの穴が開き広がりだした。

 エアロックへ行きたいのに多量の空気がその溶解した穴に呑み込まれ流出空気の激流に引き込まれまいとキャットウォークの手すりにしがみついた。

 駄目だ! こんなとこでもたついていたら後ろから追ってくる奴らに捕まってしまう!

 手すりをつかみながら前に脚を踏み出し半身振り向いて顔を強ばらせた。

 十メートルに満たない近くまで十数匹のそいつら(・・・・)が迫っていた。その寸秒だった。



 いきなり殻壁(かくへき)が大きく前後に裂けて暴風のような空気に一気に駆け詰め寄っていた怪物(・・)らが外の虚無へ吹き飛ばされた。



 しがみつくキャットウォークの手すりが近い支柱ごと床から外れ勢いをつけ曲がり始めた。





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