拾伍 之 地獄

文字数 1,003文字



 エアロックを見つけるにあたってまずコンソールを探さないとAIマザーに確認をとれなかった。

 だが広大な動力室に入ってまず気づいたのが、張り巡らされたキャットウォークの通路の壁や設備が樹脂のような液体に被われていて、一見してどこに何があるか判別できなかった。

 落ちる滝の水が止まったような樹脂の一部をつかみ手に力を入れてみた。とても固いが少しずつなら割ることができる。

 すべてを割るには膨大な時間が必要でとてもコンソールを探し出せそうになかった。

 見回しているとあちこちに垂れ下がる樹脂のベールが無数の大小の影をつくりそこからあれ(・・)が出てきそうで焦慮(しゅうりょ)が増してくる。

 悠長(ゆうちょう)なことをしてる暇はなかった。

 コンソールよりもエアロックのハッチの方が大きい。樹脂に被われていても見つかる可能性は高い。さらに資材搬入用のエアロック扉ならもっと大型で見逃さないだろうと思った。

 二人の同僚に告げ三人一緒にゆっくりと用心深く壁にエアロックの扉を探し始めた。

 半時間ほど歩いていると、樹脂ベールの量がやたらと多い一角に出た。

 扉を探していてふと気づいたものに脚を止めパルス・レーザー小銃の銃口を振り向けた。



 樹脂に被われて吊り下がる人が所々にいる!?



 よく見るとそれは女性でその周囲に何重にも人が樹脂で重なり壁のようになっていた。その悲惨な有り様に息を呑んでいると一人がいきなり眼を開き(おどろ)かされた。

 その眼孔のくぼんだ若い女性に近寄り船外活動服のスピーカーで声をかけると捕らわれの若い女性が眼を(およ)がせて懇願(こんがん)した。

 殺してと仕切りに言うので、今、助けるからと同僚ら三人で拘束している樹脂を引き()がし始めた。


 感染しているから無駄だと訴える。


 卵を産みつけられたなら医療ポッドで除去できると樹脂を割りながら励ました。


 無駄よ。空気感染で遺伝子を書き換えるからと女は引き()った笑みを浮かべた。

 突然、その捕らわれの女が苦しみだし顳顬(こめかみ)の血管が膨れ上がり皮膚の下になにかいるとでもいうように(うごめ)きだした。

 それが急激に首にまで広がり三人とも唖然としながら後退(あとず)さった。

 突如(とつじょ)、女が叫び声を上げ服の胸が膨れ上がり骨の砕ける(いびつ)な音がヘルメットの内部スピーカーから聞こえた。


 胸を縦に引き裂いて粘膜に包まれた何かが出てこようとしていた。



 小さくない何か!?



 赤ん坊よりも大きく黒い何かが!?



 発作的に銃口を上げそいつ(・・・)にパルス・レーザーを撃ち込んだ。





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